「花は待ってくれんからな、雨降らさんといて」

ダイコンの白い花が咲き始めた。近づいてみると、テントウムシのような模様の亀虫がラブラブの真っ最中。花のベッドで粋なものです。


このダイコンは、佐賀の種採り名人・岩崎政利さんから種採り用にと分けていただいた「佐賀の女山大根」。5本のうち2本の花が咲いていた。まだ蕾のダイコンは、赤っぽい色をのぞかせている。
写真を撮っていると、ヒマさえあれば村をくまなく歩いているので、「油売り」とぼくがあだ名した和章さんがやってきた。
「この虫、カメムシかな? 」確認のため訊ねると、
「そうや、カメムシやな」と言った。
「ふーん、こんな赤い模様のやつ、初めて見たね」
(後で調べてみると、ヒメホシカメムシだった。カメムシの種類は多い)
朝は寒かったが、昼ごろはぽかぽか陽気。ウズイスが鳴き、花がいっぱいつけた白菜の菜の花が重そうに頭をたれて微風に揺れている。桜の花びらが散りかけると梨の花は満開になる。その時期に、実に成らす花を残して、ほとんどの花をちぎりとる。人工受粉作業はそのあとだ。
和章さんちの梨園は、道路をはさんでわが家の庭のすぐ前にある。この天気を見越して勤めを休み、受粉作業をしていた。
「天気がいいうちにやってしまわんと、花は待ってくれんからな」
花の摘み取りとこの受粉作業に数日はかかる。結実したら、またその小さい実を大半摘み取ってしまう。とにかく梨園は一年中なんだかんだと作業があるから大変なのだ。
手に持っていた梨の花粉を見せてくれた。
「これで、いくらぐらいするの?」
「5000円」
10本ほどの梨の木に受粉させるのに、3万円ほどかかるという。
先日、梨の花をバケツに何杯も採って、そこから花粉を取り出す作業(写真:左下)を見た(集めた花粉は30度の温度で半日温めると、粉末状の花粉ができる。一定に保つ温度調整を間違うと花粉が死んでしまうそうだ)。和章さんはこういう作業が面倒で毎年買っているのだという。
「たいていの農家は自分とこの木から採取してるけどな。いそがしうて、やってられんわ。雨、降らんやろなぁ・・・」
大雨でも降ろうものなら、元の黙阿弥だ。
「いや、降るかもしれんよ。花に嵐の例えもあるさ」と脅かすと、
「かんべんしてや! 雨、降らさんといてぇな!」
「今晩、てるてるボウズ、あげとくよ」
「頼むわ、わっはは・・・」
村中に響く大声で笑う油売りの和章さんでした。

追記:夜になって小雨が降り出した・・・だいじょうぶかな? ゴメン、てるてるボウズの用意を忘れて。