秋色に染まって無蛾の境地

勝手口のドアを開けてサンダルをはこうとしたら、枯葉がついていた。足先で払ってみたら、蛾だった。物思いに耽っているのか、じっと動かない。

「やっ、蛾さんでしたか。これは失礼。こんなところで何をしているんですか」
「別に何も・・・。秋色に染まって無蛾の境地、といったところです」
「はぁ、無蛾の・・・なるほどね。なかなかやりますな。自然と一体となる、というわけで?」
「一体も何も、あたしゃ、もともと自然そのものですからね」
「それにしても、柿の枯葉とよく似ています。擬態術ができるんですか?」
「擬態? 天地というこの宇宙においては、柿の葉もあたしもアンタも区別はない。人間はようやくiPS細胞の発見に辿りついたが、その細胞もつきつめていけば一つ。アンタもあたしも」
「うーん、まいりました」
                                                                                                      (村長 平野)