コラム
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田植えが終われば、コイの季節
「頭は悪いけど、顔がいい、野花です」
おじいさんは山に柴刈りに、おばあさんは川で洗濯というのは、ふた昔前の話。コ~イの~コイのきせ~つは、といっても川の鯉のお話。
「平野はん、川へコイをとりにいくけど、見にくるか」と野花志郎さん。NPO丹波里山くらぶ仲間の理事長はそう言って、6月3日の昼から、修ちゃんに清左衛門さんなど5、6人の仲間を引き連れて近くの川へ向かった。
なにしろ「小学校のころから、授業中でもぼんやり川の魚のことばかり考えとった」という。その少年時代を引きずったままに、朝5時起きで畑でのひと仕事、休む間もなく果樹(ぶどう、柿、みかんなど)の手入れをしたり、山へ入ってシイタケの原木を伐ったりして、空いた時間があれば家の前の川で投網する。秋はマツタケ狩り、そしてNPO活動も率先垂範(だから私はその発足時に理事長に推した)。
「頭は悪いけど、顔がいい、野花です」
初対面の人には、それが決まった挨拶。そんな人好き・世話好きの親分肌なので、近所の人たちもよく集まって長々と油を売ったり、相談ごとに来ているが、分け隔てなく相手をしている。
私も少年のころはよく川遊びをしたが、もう鯉も恋にも縁遠い。しかし、せっかくのお誘いだし、畑の支柱にするハチクを伐るついでに、少し遅れて見学に行った。平均年齢70過ぎの少年らが、アユ釣り用の胸まである長靴をはいて川に浸っている。志郎さん一人はダイビィング用のゴムスーツ。ギャラリーも何人か来て覗いている。私は土手に続くハチクを伐りながら、ときどき川の様子をちらちらと見ていたが、ギャラリーの反応からして、成果はなさそうだった。
汗を流しながら伐ったハチクを土手から軽トラに運んでいると、何やらあがったらしい。
「なんやカメか」
「いや、ちゃうな。あっ、すっぽんやないか」
「平野はん、持って帰らんか」
「いや、けっこうです。すっぽん鍋の用意ができたら、飛んでいきますよ」
「料理屋に持っていったら高こう売れるでぇ」
しかし誰も手を挙げる人はいない。
ハチクを軽トラに積みおわって帰るころ、やっと鯉が1匹、2匹、3匹。成果としてはこんなものなのだろうと思っていたが、翌日、携帯に留守電が入っていたのに気づいて、志郎さんに電話すると、
「あそこはよう獲れる所なんやけど、わし、失敗したんや。網を反対にして巻き込んでいたんや。あれから川上に少し上ったところで、16匹獲った」
「えーっ、すごいですねぇ。で、どうしたんです。料理しましたか」
「いや、5匹ほど川に放して、わしは1匹も持って帰らなんだ。みんなどうしたんか知らんけど、池に放したりしてるんとちゃうかな」
こうして鯉の季節はしばらく続き、夏になるとアユ狩りや小魚獲り。小魚は炭火でゆっくり焼いたり、煮込んだりして、これも近所に配っている。とにかく野花志郎さんは、よく働きよく遊ぶ天然児である。