「当たり前のことをしているだけ」   藤田 剛さん(藤田農園)

自然農法にこだわり続けて19年

 イタチはネット(防獣網)の下から、キツネはネットを持ち上げて、アライグマはネットを上から抑え込んで田んぼに入り込む。
 藤田さんは、田んぼの畔道を歩きながら、いつものように笑って話してくれた。

 「アライグマが出たのはこの春初めてやった。だからネットの中にも電柵を仕掛けるしか防ぎようがない」と。
ここは、丹波市に近い福知山市の盆地。田植えは例年より少し早く、5月初めからをしているが、6月中頃までかかりそうだと言う。
アイガモ農法・自然農法で米作りを始めて19年目になる。農薬はもちろんのこと、有機肥料も使わない農法だ。アイガモのヒナを田んぼに放つのは、田んぼの草を取ってもらうためだが、思い通りに働いてはくれない。なぜならアイガモたちにとって水田は職場ではなく、あくまでも安全なエサ場なのだから。彼らが水田のなかを走り回って雑草を踏みつけるので、結果的に除草されるというだけで、除草のために雇われているわけじゃない。
アイガモを保護するために、防獣ネットを田んぼとあぜ道の間に張り巡らして、ネットの外側には電気柵を巡らす。さらに、田んぼの平面全体の1.5mほどの高さに、釣り糸を縦横斜めに引き巡らせている。上空からはカラスがアイガモのヒナを狙っているからだ。釣り糸は半透明で細いから写真には写らないが、カラスには見えている。糸と糸の間には、カラスが侵入できるだけの空間があるが、かしこいカラスは冒険をしないようだ。
ここまでしても、一つの田んぼ(2~3反)に20~30羽離しているアイガモのヒナの半分以上がやられたり、ときには全滅といった被害を被ったりする。アイガモを田んぼに放つ期間は、だいたい2カ月程度。その頃には、雑草に負けない程度に稲がすくすく育っている。しかしアイガモのヒナが減ったり、いなくなった田んぼでは、稗や粟がわんさと茂るから、夏場の草取りはたいへんだ。便利な機械もなく除草剤など使わなかった昔は、田んぼの「夏草取り」は俳句の季語になっているほどだった。

藤田さんは、アイガモたちの安全地帯を作るために、慣行農法(農薬や除草剤、化学肥料も使用した農法)の何倍もの労力と費用と時間を費やしている。しかも、1反当たりの収量は、慣行農法の半分程度。それなら、収穫したコメの値段は何倍にもなるかといえば、そうではない。スーパーなどで売っている安い米に比べたら当然高くはなるが、自然農法のこだわり(安心安全)を理解している人には、むしろ安いくらいと評価している。もちろん、米の味や質が悪ければ話にならない。藤田さんのお米を買う人は顧客ファンがほとんどということからして、「米のおいしさ」は証明済み。作り手の誠実さが、米のうまさに反映しないわけがない。
ところで、藤田さんはなぜ、こうまでして自然農法にこだわるのか。私が初めて藤田さんと出会った十五年ほど前、すなわち藤田さんが脱サラして米作りを始めたて四年ほどのとき、そのことを尋ねてみた。すると、一言こう言った。
「当たり前のことをしているだけやけど……」と。それ以上のことは何も言わず、笑っていた。私はそれ以来、藤田さんの一ファンになっている。

 以下の文章は、藤田さんが「お客さま」に郵送した手紙である。実直な人柄が手紙にもじみ出ている。

お客様へ                  
令和2年5月18日
藤田 剛
拝 啓

 平素は大変お世話になり誠にありがとうございます、

コロナ禍いかがお過ごしでしょうか?
こちらは、3密とは縁のない生活をしておりいつも一人で、お人様とお話するのは平均一人、日本語も忘れそうですが、たまに買い物をする時はマスクをしているところです。
そんな事で普通の生活をさせていただいており、田んぼの現状をご案内させて頂きます。

今年は、田植えを早め栽培期間を長期に致しました。
その分時間的に少しは余裕がありますが計画通りにはなかなかまいりません。
早植えの苗が育苗期間中寒くてあまり大きくならず、鴨ヒナは予定通り孵化し送られてくるので田植えを強行しました。
小さな苗を植えたので、水が多いと水没するので水を少なめにしていたところヒエが大量に発生してしまいました。
本来、ヒエ対策のために長期栽培にしたのですが‥‥‥‥。
これから、鴨ヒナの仕事に期待したいところです。
ところで、今年は初めてアライグマに鴨ヒナが襲われました(棚田のヒナ20羽中12羽)
キツネだと全滅ですが8羽残ったのは不幸中の幸いです。でも、ヒナはいつも固まって仕事しません。早く忘れて元気に泳ぎ回ってほしいものです。
尚、アライグマは合鴨ネットを吊り下げて侵入したので網の周りに電気柵を設けて対策しました。
状況は写真を添付しますのでご覧ください。

関係ありませんが、今年もツバメ元気に育っています。
では、状況下くれぐれもご自愛ください。 
敬 具