田舎暮らしに入る前の「助走期間」を楽しんで

あれからもう5、6年になるだろうか。「田舎暮らしをしたいのですが・・・。いくつかの候補地として丹波はどうかと考えています。一度訪ねてみたいのですが」
電話でそんな相談があった。

 東京で暮らす20代半ば、仕事は公務員だという。
『田舎は最高』を読んで、その中で誰に会って話を聞きたいか、考えて来なさいと言って、この本と2~3の資料を合わせて郵送してあげた。
数か月後に夫婦で訪ねてきた。仕事というのは、海上保安庁の航空機のパイロットらしい。新婚ほやほやの奥さんの故郷は鳥取県だという。
「田舎暮らしはお奨めだけど、日本も広い。どんな田舎で暮らしたいのか、自分たちのライフスタイルに応じたイメージを持つことが大事だよ。田舎に引っ越したけど、そこが嫌になったら面倒だよ。だから慌てずに、その辺をしっかり考えてみたほうがいい。まだまだ若いのだから、10年くらいは田舎選びの助走期間を楽しんだらどうですか。その期間のほうがむしろ愉しいから・・・」
そんなアドバイスをした。それから彼らは、本の中にある1人と、他の資料の3人に会って話を聞きたいというので、案内してあげた。
仕事柄もあり、まだ若いので転勤もあり、あれから2回ほど引っ越ししているようだ。2年程前には、生後1年という赤ちゃんの写真も載せた年賀状が届いた。
当分、田舎暮らしはできそうもないようだが、いずれ彼らは自分たちの生活にふさわしい最高の田舎に移りすむだろうと思う。 2020.05.25 平野 隆彰