B級グルメ考

内田百閒先生が酒のサカナに珍重されていたものにオカラがある。酒のサカナならいいが、これを山盛りにして、レモンをふりかけ、

それだけで真夜中から朝までシャムパン(百閒先生の表記法)をかたむけていられたとは、人の味覚をはたから云々してもはじまらないが、常識的にはどう見てもB級いやC級のサカナといわざるを得ない。
今はどうだか知らないが、昔の作家は文豪といえども貧寒きわまる食事をしていたようだ。グルメの大王谷崎潤一郎、食いしん坊の小島政二郎、みずから包丁をとった檀一雄など数人をのぞいて、一般に作家は粗食の人が多かったようだ。
茄子の味噌汁、茄子の煮物焼物、茄子の漬物と、茄子ずくめで満足していたという森鴎外の食卓、毎晩一汁一菜で、その一菜も余れば翌日娘たちの通学の弁当のおかずにしたという夏目漱石の食卓の例もある。ああ、常人ばなれした大食の正岡子規があるが、あれは迫りくる死に抵抗する狂い食いともいうべきもので、しかもその献立を見るとB級グルメの見本のようだ。
永井荷風に至っては、晩年庭先の七輪に土鍋をかけ、何の雑炊かエタイの知れないものを箸でかきまわして食っていたという。
あまりB級グルメ礼讃論をやっていると、そのうちこちらも荷風先生のようになってしまうかも知れない。
                                                        出典:『あと千回の晩飯』山田風太郎 朝日文庫