薪ストーブのある暮らし(6) 丹波篠山 ギャラリー・ダルシャン

3月末頃に取材させてもらうつもりだったが、お店(ダルシャン)の商品買い付けのため2週間ほど海外にいくという。

そして約1カ月後、4月25日の取材となった。
立杭焼の今田町に行く用事といえば、兵庫県陶芸美術館や窯元を訪ねるくらいで、この辺の地理はあまり知らない。軽トラにナビはないし、いちおうネット地図で調べていったけれど、ちょっと道に迷ってしまった。
 地元の人にDARSHAN(ダルシャン)の場所を訊ね、谷筋を東方向の山に向かっていくと、すぐ近くだった。篠山市今田町下小野原。
カレーの匂いがした。藤森成正さんは、カフェのなかでインドカレーの下ごしらえをしていたようだが、さっそくそのカフェに隣接した自宅に案内された。30畳以上ありそうな大きな部屋(居間)の中心に薪ストーブが据えられており、その奥にベッドが見えていた。プライベートな部分を撮影するのはまずいと思い、薪ストーブだけに焦点を当て、シャッターを10回ほど押した。その間、数分。そして外は温かかったので、お店の前のベンチに腰掛けて話をきく。

「この道に入るのは初めて。こんな立派なお店があるとは・・・」と、お世辞ではない感想を先ず言った。DARSHAN(ダルシャン)は、ラグ&アンティーク家具の直輸入・専門店で、インドやパキスタンをはじめアラブ圏の国から家具や絨毯を仕入れて卸と小売をしているという。あまり車も通らない山間の場所で、こういう商売が成り立つのだろうか、というのが第一印象だった。でも、藤森さんの話を聞いてから店内も見せてもらうことで、十分合点がいったのだった。
 先ず、なぜここで店を構えたのかという質問の答えは明快だった。
藤本さんは、ここから山ひとつ越えた所の地元出身で、この店舗・自宅の土地は、父親が所有する山林地だった。東京の大学を卒業後、商社に就職して輸入の仕事をしていたが、約10年前に地元にもどり独立自営の道を歩むことになった。昭和46年生まれというから今41歳で、子どもは3人目がもうすぐ誕生の予定。
「商社勤めで回ったのはほとんどアジアの国々です。たとえばチークの家具といえば南インドですが、ガイドブックには乗っていないような現地に行って、生産者から直接仕入れます。現地の人の家に住んで1年ぐらいインドを回りヒマラヤにも行きました」
 うーん、なるほどねぇ。そういう地に足がついたビジネスキャリアを持っていれば、一人の人間(男)としても成長するだろうなと想像できる。アジアの現地の辺鄙さから比べたら、こんな山奥でも都会に等しいだろうと。 
DARSHAN(ダルシャン)をオープンした当初は卸しをメインに始めた。
「顧客ルートがあったので滑り出しから順調でしたが、今は小売と半々になっています。最近はもう展示会を開いて販売するというやり方は、ビジネスモデルとして古くなっていますから」
ダルシャンのコンセプトは高級感とアンティークで、観光地の民芸店や土産店に置いてあるような“日用雑貨類”とは違う。だから最近は、おしゃれでセンスのよいインテリア家具・ジュータンなどをも求めるお客が遠方からも訪れるという。そんなお客のためにカフェもつくったようだ。
小売ニーズは多様だから、いまも年に2回、多くて4回ほど海外にでている。昔は1回あたり1カ月ほど出張したが、最近は2週間程度。高級で実用的なジュータンといえば、アフガニスタン、トルクメニスタン、パキスタンなどの遊牧民の世界で、「彼らはタテ社会ではなくヨコ社会。だから、なおさらに人間の信頼関係を大切にしているし、貴重な情報も人から人へ伝わる」のだという。

 薪ストーブの取材のはずが、つい興味深い話に引き込まれてしまっていたが、ストーブのモデルタイプを訊ねると、即座に「ダッチウエスト・エンライト・ラージ」という答えが返ってきた。
「以前、篠山市内のカフェ・ラ・マルカというお店を取材したんですが、そこの薪ストーブも大きかった」と言うと、
「オーナーの越智さんは、うちの薪ストーブを見にこられて、同じものを据えたんですよ。店内のインテリア家具などはうちの店からずいぶん買っていただきましたし、オープンのときにお手伝いさせてもらいました」
そういうことだったのか。
カフェ・ラ・マルカの記事を読みなおしてみると、ダッチウエストのエンライト・ラージの最大熱出力は17,600kcal、最大暖房面積は223㎡(約135畳)。
カフェ・ラ・マルカの店内は40畳(うち事務所が8畳ほど)で、店主の越智香里さんは十分温かいと言っていたし、ストーブの近くに座ったお客が途中から熱くなって席を移りたいということもあると言っていた。
であるから、藤本さん宅の居間の広さ(30畳)ではもちろん十分すぎるほど温もる。
自宅を建ててから5年目くらいに薪ストーブを据えたのだという。
「もともと実家には薪ストーブがあったんですけど、そのストーブは効率が悪くて不満だった。だからぼくの家には、4次燃焼を売りにした当時の最新型の薪ストーブを入れたあと、実家のほうも同じものを入れ替えたんです」

「ここは裏庭に山があるから薪の確保には苦労しませんね。うらやましい」
「そうですね。うちの敷地は2000坪ほどですけど、隣接する山の所有者には適当に伐採をしてくれと言われている。落葉樹ばかりでなく杉やヒノキでも薪にしますよ」
それにはちょっと驚きだった。我が家では、ヤニが多い杉やヒノキは薪として使わないからだ。
「エントツ、だいじょうぶですか?」と訊ねると、
「いや、どうもないですよ」とあっさり言って、こう付けくわえた。
「燃焼効率をさらによくしようと思い、高さ5メートルほどあるエントツにダンパーをつけてみたりしましたが、その必要はなかったです」
たしかに薪置場には、皮がついたままのヒノキの薪が積んであった。
話が大方すんでから、店内を撮影し、裏庭を案内してもらった。
鉄道の枕木をふんだんに使った散歩道のまわりには小葉の三つ葉ツツジの花が満開だった。シイタケ材になる落葉樹が多く、間伐もよくされているのでとにかく明るい。
それにしても、商品仕入れから、販売、カフェまですべて一人でこなし、その上、裏山の手入れから薪づくりまで・・・
「カフェもやって大変ですね」と、歩きながら何げなく言うと、
「いや、ギャラリーがメインでカフェのほうはおまけです。ギャラリーに来られたお客さまにくつろいでもらおうと開いたわけで。山の手入れも庭作りも愉しいですよ」
藤本さんはいかにも楽しそうに言った。
遊牧民にはそこが楽天地であるにしろ、彼らの厳しい生活を見ている藤本さんにおいては、ここはまさに楽天地であるにちがいない。自ら切り拓いた新天地であれば、なおひとしおに。

ギャラリー・ダルシャン

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