胃袋の連帯と暴走

世界最大のレストランで


 『もの食う人びと』(辺見庸著)に、「胃袋の連帯」という小見出しで、こんなおもしろい描写がある。
「見ていて飽きない。
 美女がワニのように大口開け、紳士がひげに食べかすをつけ、頬を風船のように膨らませて奮闘している。
 青筋たて、首をうちふって、ものを噛み切ろうとする老人。食べものが通過していく時の、そこだけ別の生き物みたいな、喉のうごめき。
 数千の口と胃袋に詰まっているのは、思想でも主義でもなく、ただ食いものばかりなり。
 ああ、人とは、あなたも私も、もの食う器官なのだなあ、と感に堪えなくなるのである」

BOOK紹介

『もの食う人びと』辺見 庸

 正食から平和運動へ

 これは、バンコクにある「世界一大きいレストラン」とギネスブックが認定する「ロイヤル・ドラゴン・レストラン」で著者が眺めた印象である。「海鮮料理を中心に約千種類が記載されたメニューは、厚さといい重量といい、もう書物というにふさわしい」もので、レストランの広さは五千人を収容できるというから壮観な光景だろうと想う。たしかにこの場では、民族・宗教を超えた「胃袋の連帯」と、著者の目に映ったにちがいない。
だが世界の現実を見れば、食の、水の、種の争奪戦が激しさを増すばかり。その一方、日本では約1900万トンもの食品廃棄物を出している。想像を絶する量だが、「世界で実施される食糧援助」の約3倍だと聞いたら、考えさせられる。胃袋の連帯というより、まさに胃袋の暴食がさまざまな生活習慣病を生みだし、国民医療費の高騰を招いている。暴走しがちな胃袋をコントロールしないかぎりメタボは減らず、医療費高騰の歯止めがきかず、食糧危機にしろいずれ避けられないだろう。胃袋ではなく頭で食べること(正食)を説いてきた桜沢如一が、その後半生を反戦平和運動に熱を入れたのは分からなくもない。 (平野隆彰)