高野渚さんの現地レポート: ネパールの「三種の神器」

帰国の時が迫ってきた。残り約1か月の任期。これまでネパールで過ごしてきた時間を振り返ると長かったと感じる。ネパールでの23カ月間はとても濃かった。

初めての海外生活、初めてのネパール、初めての海外ボランティア、初めてこの国に到着してから今日まで何をしてきたか思い出すには時間がいくらあっても足りない。写真もたくさん撮った。とても楽しく、少しだけつらかった。今まで感じたつらさの合計よりも約2年間住んだバラビセを離れることが一番つらい。
異国の文化の中で過ごした2年間、生活は日本とは少し違う。雨季が終わりカラッとした天気が続く乾季のある日、いつものように足踏みや手でごしごしと洗濯をしていた。そういえば日本にいるとき洗濯が非常に面倒だった。洗濯から脱水までしてくれる自動洗濯機があったにもかかわらず、洗濯が面倒だった。今は全て手洗いだ。少し面倒に感じるが、少しでも清潔でいたいと思うからそんなに苦ではない。今は乾季になったからいいのだが、雨季は洗濯物が乾かない。

なぜ洗濯機が普及しないのか?

 雨季は1年の約4か月続く。毎日雨が降る。もちろん一日中雨は降り続けないが、外出時間が長いため、洗濯物は屋根のある所で乾かしていた。そんな時いつも思っていた。脱水機があれば・・・。手絞りだと本当に乾かない。なんか臭う。隅っこから生えてくるカビもひどい。謎の虫刺されもひどい。よく洗濯機があればいいなと思った。
洗濯機から思い浮かんだことがある。近所のネパール人の家に洗濯機は見かけない。みんなせっせと手洗いしている。そういえば、戦後の日本の三種の神器は白黒テレビ・洗濯機・冷蔵庫だ。洗濯機が含まれている。日本の三種の神器のうちネパールの家庭であまり見られないのは洗濯機だけだ。ネパールのバザール(地方の町)で持ち家がある家庭では白黒テレビはないがカラーテレビがあり、冷蔵庫もあるが洗濯機はない。そこで私が今まで訪問した範囲でネパールの三種の神器は何か考えてみると、カラーテレビ・冷蔵庫・バイクだと思う。
ネパール人から手洗いについて不満を聞いたことがない。洗濯機がほしいと言う言葉も聞いたことはない。村やバザールで洗濯機を見たこともない。首都カトマンズでは外国人の住む家で見たことがある。大型ショッピングセンターの電化製品売り場でも見たことがある。しかし、カトマンズに住む日本に住んだことがある比較的裕福なネパール人の家では洗濯機を見たことがない。そのネパール人に洗濯機について聞いてみると以前洗濯機を買って使ったが汚れがきれいに落ちないため、結局もとの手洗いの方がいいと判断し売ったようだ。彼曰く、ネパール人の多くは服を2日着てから洗う。それにネパールは日本よりも砂ぼこりや排気ガスで汚れがひどくなるそうだ。
砂ぼこりや排気ガスの汚れは私も経験した。1日首都カトマンズを歩いた後、服を洗濯すると水が真っ黒になった。日本では普段の生活で服がとても汚れることは少ないから、洗濯機でも十分きれいになるのかもしれないと思った。そして洗濯機を必要としないもっとも大きな理由は、洗濯機が水を多く使うことらしい。他の理由として思うに、ネパールの多くの家庭では夫が働きに出て妻は家事をしていることも関係するかもしれない。妻が家で手洗い洗濯をする時間があるから、よりきれいになる手洗いをするのかもしれない。

テレビ番組で外国語を覚える

 さて、日本とネパールの三種の神器のうち違いは、日本は洗濯機、ネパールはバイクだ。カトマンズの道ではバイクがまるでレースをするかのように入り乱れて走っている。見ているだけで怖く、バイクにだけは乗りたくないと感じる。バザールでもそこらじゅうの道端にバイクが止めてあり、道では車よりもバイクの方が多く感じる。
ネパールでバイクが好まれる理由は、主に車よりかなり価格が安いことだろう。それにカトマンズの渋滞が多いところでは車の脇をすいすいと行けることも便利かもしれない。実際にはバイクだけでも渋滞になりそうなくらいたくさん走っている。驚いたことは、幹線道路から離れた村に行く道は未舗装のがたがた道をすいすいと走っていくバイクの姿だ。日本ではテレビでしか見たことのないオフロードレースよりももっとひどい道をバイクが行く。村とバザールを行き来しながら仕事をする人には欠かせないアイテムなのだと感じた。
ネパールの三種の神器の中でも一番普及しているのはカラーテレビだと思う。村の土壁土床の家にもカラーテレビはある。冷蔵庫やバイクはバザールのコンクリートやレンガの家に住む比較的裕福な人か食堂やレストランを経営している人が持っているようだ。ネパールでは中国から安くカラーテレビが輸入されているため、多くの人が購入しやすいのかもしれない。
テレビのおもしろい話がある。若いテレビを見て育った年代の人たちはヒンディー語も英語も聞き取りができるそうだ。ネパールのテレビ番組はネパール語だけではなく、インドの番組や欧米の映画やドラマをたくさんやっている。そのため幼いころからヒンディー語や英語の番組を見て言葉を覚えるのだろう。母国語以外の言語を聞き取れる彼らがうらやましい。
冷蔵庫とテレビは日本とネパールの三種の神器で共通する。でも洗濯機とバイクは共通しない。日本も昔、車がたくさん普及する前はバイクが道路を埋め尽くすほどたくさん走っていたのか?洗濯機とバイクはネパール人と日本人の国民性の違いの象徴かもしれない。はたまた私の見当違いかもしれない。

発酵食品「青菜のグンドゥルック」

ネパールで過ごしてきた日々の中に日本とネパールの共通点や相違点がもっとたくさんあるだろう。日本に帰ってから改めてネパールのことをたくさん思い出すに違いない。
ところで2年前出発時の日本と今の日本はどんなふうに変わっているのだろう。
携帯電話はスマートホンがかなり普及しているだろうな、と考えたり、塩麹というものが流行っているらしいけど、塩麹って何?って考えたり、塩麹もいいがネパールの発酵させて乾燥させた青菜のグンドゥルックという食材もいい健康食品になるのではないかと考えたり。日本に帰った時、逆カルチャーショックに陥らないよう今から日本のことも思い出しながら帰国準備をしよう。


高野渚

青年海外協力隊
隊次:22年度3次隊
職種:村落開発普及員
任国:ネパール
任地:シンドゥパルチョーク郡バラビセ
配属先:シンドゥパルチョーク郡農業開発事務所バラビセ支所

コメント:帰国して落ち着いたら、ネパールの食農事情のことを詳しくレポートしてください。楽しみに待っています。では、お気をつけて。 村長 平野