薪ストーブのある暮らし(4)

暑中お見舞い申し上げます。
こんな猛暑のさかりに、薪ストーブの話などとお思いでしょうが、篠山市郊外にオープンしたイタリアンレストラン&カフェ「トラットリア・アル・ラグー」を紹介します。薪ストーブに関心のある方だけでなく、田舎(丹波)でお店開業などお考えの方もご参考に。


伝建地区になる昔の宿場町に
丹波という“田舎”に暮らしていながら、「ここは田舎だなぁ」と思える地区がある。私が住む春日町は舞鶴若狭道のインターもすぐ近いし、いちおうJR駅(黒井駅)もあるからアクセス的にはいたって便利。神戸・大阪・京都・日本海にも1時間余りで行ける場所(兵庫県の中央)に位置する。だから都会の人が思うほどに田舎ではない。
その感覚からしたら、ここ篠山市福住というところは高速道から離れた市の郊外で、田舎に該当する地区だろう。まして神戸から移住して、イタリアンレストランを新規開店というのだから、はたしてやっていけるのだろうか?
7月11日の午後、そんなことを想いながら篠山城のお堀から亀岡方面を走り、店主の兼井昌二さん(46)・英子さん夫妻を訪ねた。
「安田の信号からすぐです」と聞いていたが、なにしろカーナビのない軽トラで、その近くで迷い電話した。亀岡に向かう372号線の安田ではなく、173号線(能勢街道)の安田信号から横道に入ると、そこが昔、宿場があったという旧街道で、大阪や京都につながる物流の拠点だったのだ。
まったく人通りがなく閑散としていた。100メートルはあるらしいこの通り(地区)を、伝建地区(国重要伝統的建造物群保存地区)として文化庁に申請中だという。

築150年の古民家再生に、家主さんは涙
午後3時過ぎは手がすくので、ということだったが、この日はたまたま10人ほどお客がいて、昌二さんは料理の真っ最中。奥さんの英子さんから先ず話を聞いた。
篠山市には、一般社団法人ノオトを中心に「古民家再生」を手掛けるグループがある。その中心メンバーのひとり才本謙二さん(才本建築事務所)に案内されたときのこと。
「この家を初めて見たときは圧倒されました。なにしろ築150年で、15年間空き家になっていた家ですから、こんなところに住めるのかなって(笑)。でも主人は、古い梁や柱を見て、最初から気に入っていました」
借りることに話がまとまると、さっそく全面的なリフォームが始まる。
昌二さんは高級住宅地と言われる神戸市東灘区(岡本)で10年間、 エスプレッソコーヒーやイタリア料理のお店を開いていた。常連客はついていたが、「厨房は狭いし、もっとやりたいことができない」とジレンマを感じていた。
兼井夫妻は、スローフード発祥の地でもあるイタリアには何度も行っている。特にトスカーナ地方がお気に入りで、郷土料理家の家に泊まり込み、いわゆるおふくろの味(マンマの家庭料理)を学んできた。昌二さんは「ソーセージや生ハムななども作ってみたい、ワイン庫も作りたい」といった思いを叶えるために、新天地を求めていたわけだ。
リフォームは「明治初期のイメージで」という昌二さんの思いを伝えただけで才本さんにお任せ。新建材では味わえない落ち着いた時間と空間が蘇った。。
「リフォームが終わってから家主さんが見て、涙して喜ばれていました」
裏庭には小さな畑、離れ屋、土蔵もあるが、そこはまだ手つかず。そして、住まいのほうは3歳になる勝盛くんと親子3人が、店の奥にある8畳1間だけというから驚いた。
「主人は、冬になったら寝袋で寝ると言っています」と英子さんは大らかに笑う。そこまでの覚悟があればだいじょうぶだ。

「何もないところに石を投げてみたかった」
お店は5月の連休前にオープンした。 「トラットリア・アル・ラグー」 と英子さんが名付けた。トラットリアは大衆食堂、ラグーとは昌二さんの得意な煮込み料理のことだが、地元の人たちが気軽に寄るカフェとして利用してほしいと、英子さん手造りのドルチェ(ケーキ、お菓子)やパニーニ(サンドイッチ)を出している。
「みなさんに野菜を持ち寄ってもらい一緒にお料理を楽しんだり、裏の畑にはちょこっとハーブも植えました」
しばらくして、手があいた昌二さんから話を聞く。英子さんが話していたように、相当なこだわりと覚悟を持っていることが、淡々と語る言葉のはしばしから伝わってきた。
「岡本の店はそこそこ流行っていましたが、何となくズルズルやっている感じがあって。ぼくはその場で足踏みをするのが嫌いな性質なんです。初めてここを案内されたとき、古い牛舎や倉庫なども当たり前のように活かしたトスカーナのイメージがパっと湧いてきて、すぐ決断しました」
観光客の多い市内の城下町に近いところで開業することを考えなかったかと訊ねると、その応えも早かった。
「二番煎じになるのは嫌なんです。ここは自然環境がいいし、これぐらいの田舎のほうがいい。お客が来ないのは困りますが、ただ単にお客の数をさばくようなレストランにしたくない。とにかく何もないところに石を投げてみたかった。いまは物珍しさがあるせいか、とくにオープン当初はさばけないほど忙しかった。でもこれからはリピーターをいかに増やせるかですね」
店の3軒隣にはドミトリー式の宿泊施設を始める人や、大阪から移住してJAの跡地で吹きガラス工房を始めた若い夫婦もいるそうだ。この伝建地区にかぎらず、「一石を投じる」新しい血が、どこの地域にも必要なのだ。

「店の隅々まで暖かった」 ダッチウエスト コンベクションヒーター FA285
店の入口のすぐ前に、薪ストーブがある。ノオトの人から、丹波の冬は底冷えがするし、「ぜひにと勧められた」そうだ。広くなった厨房機器にかなりの出費があったが、「お店の顔になる、能力的に優れたもの」をと選んだのが「ダッチウエスト コンベクションヒーター FA285」、この連載で一番に紹介した本庄さんと同じ機種である。
ゆったりした店内は客席が30ほど。薪ストーブは入口にあっても、空気が対流するので奥の席までぬくもりが充分届く。この冬は4月になっても寒さが続いていた。オープン前に薪を調達して5月初めまで毎日ストーブを焚いたところ、「店の隅々まで暖かった」ので安心したという。
薪ストーブの横に薪束が少々、まるで置物のように所在なく置かれている。真冬になったら、どうするのだろう。薪小屋はどこに?と訊ねると、まだそこまで頭も手も回らないという。そこでさっそく先輩風を吹かせて、「相当な量を確保しておかないと大変」などと脅かしたりすると、昌二さんは神妙な顔をして頷いていたが、「冬になったら寝袋で寝る」覚悟があるだけに、どうにかなると思っているようだ。ばたばたしても始まらない、新天地のスローライフを楽しみたいというわけだろう。
ブカティーニという穴のあいたパスタがおいしかった。薪ストーブの威力をたしかめるためにも、いずれ真冬に家人と共に訪ねてみたい。(平野)

トラットリア・アル・ラグー   (079)506-3070

  ■ 情報提供:薪ストーブさんたん  http://www.makistove-santan.jp/