日本に生まれてよかった

篠山春日能
 初めて篠山春日能(篠山市)を観にいったとき、花冷えの寒さに震えてしまった。だから防寒の用意はしていくのだが、今年は一段と風が冷たくて・・・。

4月14日午後1時過ぎ、車を篠山城の近くの駐車場に入れた。お堀周辺の桜は満開で、土曜日でもあるのに、どういうわけかあまり人気がない。桜も寂しそうだ。
駐車場から数分歩いて、開演間際に春日神社に着く。椅子席はすでに満席で、いつものように桜の根元の石段にビニールを敷いて妻と肩を寄せ合って座る。
第39回の演目は、NHK大河ドラマの平清盛にちなんで「源平ゆかりの能」。
能 頼政
狂言 因幡堂
能 船弁慶

桜吹雪は舞わず
 能について私はほとんど知識がないのだが、息吹く春を迎える通過儀礼と思って毎年来ている。時空をこえた幻想的な様式美というか、とくに野外でおこなう風情に魅かれる。忙しいからこそ、こういう非日常を大事にしたい。
能面にこもった台詞がよく聞き取れなくてもストーリーは単純だから解説書を読めばわかる。暖かい日は観ながらうつらうつらと寝てしまっていることもあるが、この日は風が冷たくて、足元がとくに冷える。冷たい缶ビールを飲んだからなおさらに。戦国時代の武将たちは酒を飲みながら能観賞したのだろうなと想うと、むしょうに熱燗が飲みたかった。
「頼政」が静かに終わると、数分後に狂言が始まったが、その間に椅子席の人たちが2割ほどいなくなっていた。あまりの寒さに退散したようだ。おそらく初めて来た人たちで防寒の用意がなかったのだろう。
 船弁慶では、終幕ころに土色の鬼面をつけた知盛(壇ノ浦で入水した清盛の四男)の亡霊が現れ、鼓に笛、地謡が唸り、クライマックスを盛り上げていく。昨年はここで演出したかのように桜吹雪がいっせいに舞い散ったのだが・・・、寒さに震える花は枝にはりついていた。鬼面が舞台ソデにしずしずと立ち去っていく後姿は哀れを催す。
ああ、それにしても、こんな素晴らしい伝統芸能を残した先人たちに敬服するばかり。自然も食も心も美しき日本に生まれてよかったと、いつもながらに思うのである。
平家物語にもゆかりの深い西行は、日本人の遺伝子を桜にこめた。
春風の花を散らすと見る夢はさめても胸のさわぐなりけり

第40回の来年は4月13日。来年はきっと桜吹雪の舞台になるだろう。