有機農業で自給できるか?

「有機農業で世界の人口を養えるか」、という議論がよくされることがある。慣行農法推進派は、有機農業に転換することは食糧不足を招くことになり、生産性の高い農業を推進することが唯一自然資源を守り、人口問題への解決になると考えている。しかし、食糧の問題は

人口問題と農業生産



「有機農業で世界の人口を養えるか」、という議論がよくされることがある。慣行農法推進派は、有機農業に転換することは食糧不足を招くことになり、生産性の高い農業を推進することが唯一自然資源を守り、人口問題への解決になると考えている。しかし、食糧の問題は栄養高やコレステロール値、また、食品そのものの質を含めて調査しなければ、生産性のみでかたることはできない。 人口問題は農業生産の方法のみでは語れない面がある。食糧不足は近代農法が発達している米国にもある。実際、米国は食糧援助として1991年、290億ドルを貧困解決のための食糧援助にあてられたが、そのほとんどが国内に使用された。問題は各国の経済状態ではなく世界的な貿易システムにあるのではないだろうか。



多国籍企業が3分の2を占める食糧貿易



事実、世界の食糧貿易の3分の2が約500社ぐらいの多国籍企業によって占められおり、しかもトップ15位までの企業の所得は120カ国の国民総生産より高いらしく、食糧の輸出入は世界のわずか一握りの企業によって支配されている。これらの企業は第3世界の主要輸出農作物のパイナップルの90%、紅茶の85%、米の70%ココアの90%、バナナの65%、コ−ヒ−の85%、トウモロコシの85%、サトウキビの60%、小麦の85%の販売を独占しており、農作物は安く買いたたかれ、これらの食糧企業によって加工され高く売られるため、第3世界は借金をかかえどうにもならなくなっている。



エチオピアでは国内の食糧不足で国民が飢え、食糧援助が各国から届く一方、公然と輸出農作物がつくられ国外に流出した。自給用の作物をつくろうにもこれらの国々は借金でがんじがらめで身動きがとれないのが現実である。

第3世界では、化学肥料や農薬は高価でしかも土壌を汚染し、保水性が低下する外、土の団粒構造を破壊するため土壌侵食がすすむことになる。また地域に農薬耐性の害虫が増加して農作物の害はますます増えることにもなる。



有機農業の生産性をシュミレ−ション



有機農業は多様な作物を輪作し、自給率を高め、長年継続すれば病中害にたいする抵抗性が強まり、外からの資材の投入が少ないのでコストが低くてすみ食糧不足解決に大きな役割を担っているのでは、という意見もしばしば専門家から聞かれる。米国のアイオワ大学ではコンピュ−タ−を使って現在の米国の有機農家の生産高を考慮にいれ、もし国内の農家が全て有機農業に転換した場合、米国民が自給していく事が可能であるか計算してみた。結果、輸出用の作物は輪作体系があるため、年々異なるが可能であり、しかも干害の時は平年よりもより弾力性があることが解った。



ドイツでも政府向けの調査で同様のシュミレ−ションを行い、生産性が多少低下するが自給が可能であることがわかった。イギリスのアベリストィス大学で、国内の有機農業の生産性を計算し、もしイギリスの国内が全て有機農業に転換した場合、輪作体系の変化によってシリアル、菜種の生産高が30−60%減少するが、一方で野菜と豆科の作物の生産高が175%増加しト−タルで自給が可能であることがわかった。



食生活のあり方を見直さないかぎり



有機農業で世界中の人が食べていけるかどうかという問題は、いままで抽象論ばかりで実際に計算されることがなかった。しかし有機農業が国際的に拡大し技術が向上するなかで先進国ではのきなみ有機農業で国内の食糧を自給しようという試みや調査がされるようになってきた。もちろん我々が現在の輸入品と肉食を中心とした食生活を続けていけば、有機農業だけでなく慣行農法でも世界の人口は養えない。アメリカの農学者レスタ−ブラウンによれば、もし中国がこのまま発展して豊かになり、日本人が食べる魚介類の消費量に等しくなれば、世界の一年間の漁獲高が必要となるし、中国人が1人あたりあと2本ビ−ルを飲むだけでノル−ウェの年間の穀物生産量を上回るそうである。有機農業の発展と共に我々の食生活のあり方を見直さないかぎり、持続可能な社会の実現は難しいと思わなければならない。



「エコロジ−&ファ−ミング」1998年9−12月号より