アイガモ米を通じて萬田正治先生と出会う

農家民宿「小野尻庵」
 いや、まったく!人とのご縁というのは実に面白いもの。今回は、人と人との間に「アイガモ」も入ったので、ますます面白い。

 「平野さん、アイガモ米を作っている藤田さんを紹介してくれませんか。全国合鴨水稲会代表世話人をされている萬田先生がうちに来られるんです」
三角修一さんがそう言ってきたのは、丹波里山くらぶの作業日のことだった。三角さんとは、拙著『田舎は最高』の取材で知り合い、その後、NPO丹波里山くらぶの立ち上げと同時に理事になっていただいた。
三角さん夫妻は丹波市山南町で農家民宿「小野尻庵」を開き、遊休地の畑5反・田んぼを1町ほど作り、また「どぶろく特区」を申請して地域に貢献している。箕面市からIターンしたのは2001年だが、会社勤めの1988年に古民家を購入して週末農業に通っていたから、丹波暮らしはもう四半世紀ということになる。

午前2時まで百姓談義
 3月26日午後6時半。藤田剛さんとともに三角さん宅にお邪魔した。すでに萬田正治先生をはじめ顔見知りの村上鷹夫夫妻(アイガモ米、丹波栗でお世話になっている)、三角さんの従兄で萬田先生の高校同級生という津崎成幸さん、「小野尻庵ファン」だという木村武雄さんがテーブルを囲んでいた。さっそく自己紹介のあと乾杯し、ぼたん鍋を囲みながら、萬田先生を中心にTPP問題や原発問題、アイガモ米づくりの楽しさや現状など、さまざまな意見が交わされた。
私は、萬田先生のことはまったく存知あげなかったが、アイガモ米づくりの世界ではつとに有名なお方だと藤田さんからも聞かされていた。先生自身の自己紹介では、60歳で鹿児島大学(名誉教授、副学長)を辞めて以来10年、霧島市の山村で1町ほどアイガモ米をつくり、「竹子農塾」を主宰して新規就農者の指導もされている。
乾杯のビールにはじまり、三角さんがつくったどぶろく、私が持ち込んだ山名酒造の日本酒のほか焼酎・・・。さすがに九州男児というべきか、背筋をピンと伸ばした萬田先生は顔色も変えず、注がれるままに呑んでいる。萬田先生はときおり説教めいた口ぶりになったが酔ってはいない。教壇の時代が長いからつい先生口調になるのだろう。厳しいが言われることは正論であり、みんな先生のキャリアや実績を認め尊敬しているから頷くしかない。
アイガモ米づくりは、村上さんは5反だがキャリアは20年と兵庫県下では最も長く、10年キャリアは萬田先生と藤田さん。今年からアイガモ米を1~2反作ろうと考えている三角さんが感嘆した。
「しかし、藤田さん、3町とはすごいねぇ。アイガモでは日本一じゃないの?しかも自然農法で・・・」
「いやぁ・・・今年は1町減らしますから」と藤田さんは謙遜する。
飲むほどに百姓談義は盛り上がり、とうとう午前2時になっていたが、“生涯見習い百姓”にすぎない私はいつしか座ったまま寝入っていた。

「こういう美しい棚田を見ると、涙がでますねぇ」
 翌朝は久しぶりの快晴。私が先頭で車を走らせながら藤田農園に向かう途中、ふと思いついた。古谷夫妻の「奥丹波ブルーベリー農場」を見学したら喜ぶだろうと。なにしろこの若い夫婦は、有機無農薬栽培のブルーベリー栽培を軌道にのせ、規模も品質も日本一を目指してがんばっている。
この春も7畝ほど栽培面積を増やすそうで、その準備作業をしているところだった。我々の表敬訪問に恐縮しながら、古谷夫妻はみんなの質問ににこやかに応えていた。二人目の子どもも生まれ、夢も膨らみ、幸せそのものだ。
そこから藤田農園の棚田まで約30分。その途中、昨年まで作っていた1町ほどの棚田を遠くから眺める。
「ここで10年、アイガモ米を作りました。水がきれいだったんですがねぇ。とにかく獣害がひどすぎて。もう米は作りませんが、小豆を2反ほど作ります」と藤田さんは説明していた。米作りをする人のいない棚田はすぐにも荒れ地にもどるのだろう。
この春から新たにアイガモ米をつくる棚田は、姫髪山のふもとにある。
萬田先生は現地に着くなり、春霞の遠くを眺めながらつぶやいた。
「こういう美しい棚田を見ると、涙がでますねぇ・・・」
その言葉に思わずジンときた。ふるさとの農業を愛し、百姓に誇りを持つ人なら皆同じ思いだろう。
畦を歩いていた萬田先生が言った。
「この畦の傾斜がきついし広いから草刈りが大変だねぇ。藤田さん、山羊を飼いなさい、ヤギを。どんな草でもきれいに食べてくれるよ」
萬田先生の専門は畜産学。『ヤギの絵本』、『ヤギ』(いずれも農文協)という著書もあるし、萬田農園ではヤギを飼っているそうだ。

後日、萬田農園のホームページを見ると、この棚田風景もまた美しい。「標高は300メートルある」と萬田先生は言っていたが、機会があれば一度訪ねてみたいものだ。( 2012.4.6 )

萬田農園 http://www.mct.ne.jp/users/manda/

合鴨農法に関するHP
http://www.minc.ne.jp/~jf6dfn/aigamo_dic3.html#aigamo_agricultural_method

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