“3世代・2地域居住”の楽しみと安心感

『神戸田舎クラブ』のメンバーとして
苗倉義男さんにとって、2地域居住スタイルの田舎暮らしは自然の成り行きだった。『神戸田舎クラブ』のメンバーとして丹波に通うようになってからまる9年。昨年2月、ついに古民家(丹波市春日町上三井庄)を購入した。

『神戸田舎クラブ』とは? 丹波新聞に連載した『田舎は最高』には、以下のように紹介している(2007年6月11日掲載)

神戸市役所に勤める乾勇二さん(写真右下)が、『神戸田舎クラブ』を職場の仲間たちと発足させたのは五年前。「高尚な目的があったわけじゃなく、みんなでワイワイ飲み食いする場所がほしかっただけです」
あの震災以来、乾さんたちは被災者のために公共施設を斡旋したり、生活再建を支援する業務を担当してきた。
「震災ショック後に、先の見えない仕事で達成感もなかった。ストレスを感じていたんですよ」と、同僚で親友の森幹彦さん(52)は、みんなの思いを代弁する。
山南・氷上・青垣・市島と一軒家の物件を探していくうちに、今の古民家を紹介された。
何しろ飲んべえばかりゆえ、夜分に近所迷惑にならない場所が条件だ。敷地は三八〇坪、隣家とも離れているし、部屋数は五部屋で十二人のメンバーは宿泊できる。敷金なし、月五万円の家賃は一人当り四千円余り、飲み屋で散財することを思えば決して高くはない。毎月一、二回、料理材料や酒を持ち込んでストレス解消の大宴会が恒例となった。初期目的は達成したが、やがて大宴会にも飽いてきた。
「酒ばかり飲んでおれん。農業でもしようじゃないか。何も分からんし、手伝いから始めようや」
紹介されたのが、同町野上野で丹波牛を生産する山本昇治さん(75)。
「手伝いはありがたいが、一年でケツを割ったりしたら町中に笑われるで」。開口一番、山本さんは笑顔でクギをさした。
牛の世話や飼料の草刈り、三町もある田圃の田植や刈り入れなど一年を通じて忙しい。春には野上野のれんげ祭りにも参加して、屋台の焼そばつくりに汗を流す。
「師匠の山本さんのおかげで農業の厳しさを知り、自然や田舎のほんとうの良さに気づかされた。田舎遊びと言われたらそれまでやけど春日町のスローライフはサイコー」(略)

2世帯で共同購入
乾さんは2003年4月に個人でこの家を買取ることになり、現在に続いている。
そして苗倉さんが購入した古民家は、職場の同僚で飲み仲間・遊び仲間でもある乾さんの家(『神戸田舎クラブ』)から1キロほどしか離れていない。「自然の成り行き」と思えるのは、そういうわけである。
「神戸の家は震災で一部損壊、都市計画のために住居を移転することになって家を建て直した。補償金プラス借金で30年ローンを組んでいる」という苗倉さん。
それでも丹波の古民家を購入できたのは、奥さん(美津子さん)の姉の酒井夫婦が共同購入を喜んで承諾してくれたからだった。しかも、ありがたいことに、購入価格は(秘密)は驚くほど安かった。
苗倉さんはこの春に定年退職する。2年前に定年を迎えた乾さん同様、あと5年間は嘱託として同じ職場に勤めるという。移住するわけにはいかず、週末農業で丹波に通う。
「神戸の家から片道100キロ、1時間10分くらいかな。高速代は往復で3000円、毎週だから月15,000円はかかっている。定住のことも含めて5年先のことはわからないけど、いずれ農地を借りて米作りをしたい」
『神戸田舎クラブ』の集まりは月例1回だが、パワフルな山本昇治さんの直弟子として鍛えられた苗倉さんは農業への思いを加速させているようだ。農業以外の趣味は、「50の手習いで始めた書道」のほか、「七輪陶芸をする予定」だという。

畑付き・山付き・竹林付き
日曜日のこの日(3月25日)、苗倉さんほか、酒井夫婦と娘の奥田夫妻、そして奥田さんの子ども真鈴ちゃん(3歳)が訪れていた。昼からじゃがいもを植えるのだという。
苗倉さんの奥さんは神戸市の保育士で、「妹はすごく忙しいし、丹波に来るのは好きだけど農業はやりたがらないわね」と、姉の酒井眞知子さんが笑いながら代弁した。
酒井眞知子さんは、昨年まで法隆寺に近い奈良に住んでいたが、夫の秀和さんの退職や再就職、娘夫妻が西宮に住んでいること、そして何より丹波の古民家の共同購入したこともあり神戸のマンションに引っ越した。
「義男さんに誘われてこの辺の不動産物件は4、5軒見ましたけど、この物件をみたとき一目で気に入りました。この冬の間は寒くてあまり来ませんでしたけど、私は畑づくりが好きなので暖かいときは毎週通っていました。秋には柿畑でたくさん柿が採れて、食べきれなくて柿ジャムを作ったりしました」
この家には柿畑もついているんですか?
どちらかといえば“無口タイプ”の苗倉さんから聞いていたのは、「50~60坪の畑がついている」というぐらいで、この物件内容がもうひとつ分かっていなかった。
「ええ、あちらのほうに10本ほど柿の木がありますよ。それにタケノコが採れる竹林もあって春が楽しみね」と眞知子さん。夫の秀和さんはニコニコ顔で聞いている。
柿畑(100坪ほど)には少しだがお茶の木も植えてあり、あちらに小さな竹林もあり、むこうの山もこの物件に付属していると言うのである。
「さぁ、山の広さはよくわからんけど2000㎡ぐらいかな」と苗倉さんはポツリと言うだけ。なんとまぁ、畑付き・山付き・竹林付きとは! しかしこれが田舎の古民家物件というものなのだ。

「この家があると思うだけで安心感」
田舎家(昔の日本家屋)はすき間風で寒いのが難点だが、購入する少し前まで持ち主が住み、きれいに使っていたのでリフォームする必要もなかったという。部屋数は5部屋、倉庫を挟んで離れ屋があり、米保冷庫やトラクターまで付いていた。
「私たちはいつも日帰りで来るんですけど、野菜も空気もおいしいし、ここに来るとホッとします。この居間から眺める景色もいいでしょう。孫も丹波に来るのがとても好きなんですよ。それに、私たちのマンションも、娘も義男さんの家も3軒とも海にすぐ近いものですから、イザというときにこの家があると思うだけで安心感がありますね。食糧危機も来るかもしれないし、世の中どうなるかわからないじゃないですか・・・」
たしかに、3.11以降はとくに、世の中どうなるかわからないというのは大半の人の実感としてあるだろう。
「ここは蛍がすごかったわね」
台所からお茶を運んできた奥田真穂さんが言った。
「そうそう、驚いたわね。奈良も田舎ですけど、あんなにたくさんの蛍を見たのは初めて」
眞知子さんは改めて感動したように言ったが、苗倉さんはじめ男たちは頷きながら黙って聞いている。いつの間にか、真鈴ちゃんパパたちと別の部屋でカラオケに興じはじめた。ここなら隣近所への遠慮もいらない。
田舎の若者たちは都会に憧れるが、間もなく二人目の子のパパとなる直樹さんは「農作業は楽しいですよ」と積極的だ。残念ながら苗倉さんの一人息子の家族は忙しくてあまり来れないそうだが、とにかく都会の3世代が田舎の自然に長く親しむことになる。丹波のためにも日本の未来のためにも幸いなるかな、“3世代・2地域居住”
 
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