丹波市のFM局開設に向けて走る

4つの顔をもつ川浦弘貴さん
 田舎暮らしを、リタイア後のライフスタイルというイメージで考える人はけっこう多い。日本はサラリーマン人口が圧倒的に多いのだから当然ではあるのだけれど。

でも最近は、若い世代に農業への関心が広まっており、新規就農する人たちにも20代、30代が増えつつある。
川浦弘貴さん(52歳)は奥さんと二人、5年前に丹波市(市島町与戸)に移住した。
その当初から観光農園を目指し、ブドウ(4種)とブルーベリー(500本)の農園を1反ずつ栽培しながら、丹波市の「町づくり指導員」としても月のうち半月ほど働いている。
「ブドウもブルーベリーも結構栽培しやすいんです。あちこちの専門農場に勝手に押し込んでタダで手伝いながら栽培法を学びました」
ブルーベリーは鉢植えで、畑一面に防草シートを敷き詰めている。とにかく出来るだけ手間のかからないように合理的に工夫している。それだけでも季節ごとの作業はかなり忙しいはずだが、彼にはあと2つの顔がある。

 ケーナ奏者とFM局研究会代表
その1つは、ケーナの演奏者。『コンドルは飛んでく』でよく知られた、南米の竹笛ケーナだ。「楽譜も読めないのに」独学で習得したという。看護師の奥さんはパーカッションを担当、二人して地域のイベントにひっぱりだこになっている。私も数年前、たんば・田舎暮らしファーラムをやっていたときに、ご夫婦をゲストに招いたことがあるが、楽しい演奏に加えて、おしゃべりもなかなか上手い。
それからもう1つは、「丹波コミュニティFM放送研究会」代表という顔。丹波市のFM開局に向けて、「みんなでつくろう! みんなのラジオ」というわけで、いま彼がもっとも力を入れて取り組んでいる。この動きがあることは、彼のFacebookなどを通じて少しは知っていたけれど、少し説明を聞いてみると、大変な事業に挑戦しているんだなと感心させられた。資本金は3000万円以上、開局後の運営費も年間同額くらいかかるというのだから。しかしこの1年間で丹波市をはじめ多くの賛同者を得て、着々と進んでいるようだ。
FMなんて校内放送の延長ぐらいにしか考えていなかったが、「とんでもないですよ」と川浦さんは笑って言う。
「あの東日本大震災では地元メディアが大活躍したように、最近のFM放送はインターネットを通じて全国で放送が聞けるし、FacebookやTwitterと組み合わせたりもできるんです。平野さんもFMで田舎元気本舗の宣伝をしてください」と勧誘されてしまった。
この川浦さんのモチベーションやバイタリティはいったいどこから来ているのだろうか。
おそらく、丹波に移住する前の経験などが大きいのだろう。

 200通の手紙を各地の自治体に送る
実は、川浦さんの田舎暮らしは広島時代を合わせるともう20年近くになる。大学卒業後、病院の事務員の仕事をしていたが、37歳のときに一念奮起。
「小学校などの廃校を利用して、青少年育成の体験ツアーなどをやりたくて、全国の自治体200カ所に手紙を送ったんです。この丹波にも送りましたよ(笑い)。1件だけ返事がきて、それが広島県の加計町の町長からでした」
加計町は現在、安芸太田町。そこで具体的にどんなことをしていたのか詳しく聞いていないが、とにかく廃校を拠点にして自炊民宿「夢の塾」を開き、地域活性化の取り組みを楽しんでいたようだ。ケーナを習得したのもその頃だったらしい。ところが、大阪に住む両親の病気の問題が起こり、広島では遠すぎるということで、やむを得ず離れることになった。そして大阪にも近い丹波市に。
FMの大きな可能性について知ったのは、福祉関連の仕事で綾部に行っているときだったという。これはオモシロイ、やる価値はあると、「200通の手紙を自治体に送った」あのストレートな情熱が再び燃えてきたのだろう。
この日(12日)の夕方、ブルーベリーの剪定作業に、高校時代の友人という田中さんも手伝っていた。彼もいずれ丹波に移り就農したいということで、午前中は物件探しに二人で走り回っていたという。
「まさか彼がこういう世界に入るとは想像しなかった。ボク自身もね。建設関連の仕事をしていますが先行きが見えないし、今はヨメさんも賛成してくれています」と田中さん。
空は晴れていたが、ときおり霰が降ってきた。山降ろしの風がきついが、景色がすばらしい。
「これからFMのほうで忙しくなるので、この農園はかみさんがすると言ってくれています。観光農園もそろそろできるようになるし、今年は大阪から友人たちを呼んで、ここでバーベキューなどやろうかと言っているんです」
川浦さんはそう言って充実した笑顔を見せる。どんなに忙しくても農業は田舎暮らしの基本とでも言うように。
東日本大震災は、いろいろな意味でのターニングポイントになる。おそらくこれからも、幅広い世代の人たちが田舎に移ってくるにちがいない。そして川浦さんのような夢やキャリアや個性が地域を盛りたてていくだろう。    (平野)

川浦さんのHP「夢の塾」→ http://www.youmenojyuku.com/

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