田舎暮らしの自己診断

田舎暮らしとひと口にいっても、そのライフスタイルや生き方はまさに十人十色だ。自給自足的な農業をベースにした人もいれば、本業の仕事や趣味を生かした「半農半X」を楽しむ人、田舎で起業する人、家族の健康や教育環境を求めて移住する人、あるいは悠々自適な晴耕雨読、週末田舎暮らし、田舎遊びで都会と往来する人(2地域住居)など、さまざまな暮らし方(ライフスタイル)、生き方がある。

「田舎は最高」(平野隆彰&荻野祐一 著 丹波新聞社 発行)より

家は新築か中古物件か

   田舎暮らしとひと口にいっても、そのライフスタイルや生き方はまさに十人十色だ。自給自足的な農業をベースにした人もいれば、本業の仕事や趣味を生かした 「半農半X」を楽しむ人、田舎で起業する人、家族の健康や教育環境を求めて移住する人、あるいは悠々自適な晴耕雨読、週末田舎暮らし、田舎遊びで都会と往 来する人(2地域住居)など、さまざまな暮らし方(ライフスタイル)、生き方がある。「ライフスタイルとしての田舎暮らし」と「生き方としての田舎暮ら し」も微妙に違う。
   これからはIターン定住よりも、2地域居住を選択する人が増えてくるのではないかと予測するが、同じ2地域居住でも田舎にシフトした生活をするのか、都会にシフトした生活するのかによって、その人のライフスタイルや行動は違ってくる。
   私は、「田舎暮らし」と「田舎遊び」の違いを次のように大きく分けている。
   田舎暮らしは、地域コユニティに積極的に参加して、農的な暮らしをする定住タイプ。
   田舎遊びは、地域コミュニティにはあまり参加せず、リゾート感覚で田舎を楽しむ2地域居住や非定住タイプ(週末田舎暮らし)。
   とはいえ、2地域居住や非定住タイプの人のなかにも、農的暮らしをする人はいるし、地域コミュニティに喜んで参加する人もいるから一概に線引きはできな い。また2地域居住の人でも、最初は都会にシフトした暮らしをしていたのが、しだいに田舎の生活にシフトしていくということもある。その逆もまた然り。
   このように、ひと口に「田舎暮らし」といっても多種多様なのだから、自分のライフスタイルはどうなのか、どのように生きたいのかをよくよく考えて家造りや物件探しをする必要がある。
   丹波新聞の連載で紹介した人たちは、ほとんどが農的暮らしを享受する定住タイプの田舎暮らしだが、都市部の家を残したままの「2地域居住」タイプの人もい る。では、この人たちの住居は、新築と中古物件のどちらが多いかというと、不動産業者から聞いた割合とまったく同じだった。つまり、Iターンで田舎暮らし をする人のなかで、新築する人と中古物件を求める人の割合は半々ということである。
   新築にするか、中古物件にするか。そこにも田舎暮らしのイ メージや趣向の違いが現れてくるが、もちろん、どちらがよいということではない。ただ中古物件を選ぶ際は、自分がイメージする住まいのリフォームにどれだ け予算がかかるものか、しっかり見積もりする必要がある。そんなにリフォームにかけるくらいなら、新築のほうが良かったということにもなりかねない。
   丹波地域の積雪量は知れている。が、冬はやはり寒いし長い。
「昔 の家だから、すきま風が入って寒いのなんのって。自分でリフォームするのも一つの楽しみだけど」と、中古物件を買った人はそう言っていた。大工仕事が好き ならそれもまた楽しいけれど、すきま風はほんとうに辛い。窓は二重ガラスにするほうがよいに決まっているが、都市部の工務店や建築士はそのへんの認識が薄 い。
   ちなみに我が家の場合は新築で、妻が家の間取り設計をして、地元の工務店と相談しながら建築してもらった。私は、妻が苦労して間取りした平 面図を見ながら、ときどき意見を言うだけだったが、腕の良い地元大工や左官職人のおかげで春夏秋冬快適な住み良い本格木造住宅が完成した。窓はすべて二重 ガラスだから、薪ストーブだけでも十分温い。この経験からアドバイスするなら、家の間取りは奥さん主導でするのがベストであり、建築は地域の気候風土もよ く知った地元工務店に頼むのがベストだということである。

自己診断のポイント

『たんば・田舎暮らしフォー ラム』では、当日の参加者に渡す小冊子プログラムをつくった。その小冊子に、フォーラム実行委員長の小森星児先生が書いた「たんば・田舎暮らし十カ条」と 「十二のチェックポイント」がある。自分はどんな田舎暮らしを求めているのか、自己診断をする一つの参考にしていただきたい。

  <たんば・田舎暮らし十カ条>

1.助走期間を十分に
2.候補地探しは十カ所×十回(候補地は次第に減るので、実際の回数はずっと少ない)
3.体力のあるうちの決断
4.熟年離婚より2住1妻(単身赴任と割り切れば、都会と田舎の2住生活も苦にならない)
5.通勤移住、週末移住、季節移住、集団移住も選択肢
6.家の作りは冬を旨とせよ
7.地域の行事に進んで参加(田舎はリゾートではなく、いつまでもお客様では続かない)
8.電気、水道、車、パソコン(田舎暮らしのライフラインは軽四輪とインターネット)
9.暮らしは田舎、収入は都会(田舎の現金収入は当てにならない、複数の収入源を確保しておこう)
10.自給菜園なら三〇坪で充分

   この十カ条は、たんばに限らず、どの地方の田舎に住むにしてもあてはまる。私はこれに加えて、「土地選びと家づくりとはカミさん主導で」という一条をあげておきたい。

   十二のチェックポイントについては、その六つだけを紹介しよう。

・ 素手で虫やカエルを掴めますか
・ 真っ暗な夜道でも歩けますか
・ うわさ話は潤滑油だと割り切れますか
・ 集落の「役」が回って来たら引き受けますか
・ インターネットで買い物ができますか

   このようなチャックポイントを一つ一つチェックしていけば、自分のイメージする田舎暮らしのライフスタイルがある程度見えてくる。とにかく第1章でも述べ たように、自分らしい田舎暮らしに失望しないためにも、助走期間にしっかり考え、しっかり準備してほしい。イメージが固まれば、決断するときの迷いがない し、移住後に後悔することもないだろう。 田舎風景



極楽の余り風

では、「たんば・田舎暮らし十カ条」やチェックポイントに照らし合わせて、田舎暮らしに入る迷いが生じたり自信がなくなったら......?
   女性はとくに、虫が嫌い、蛇が嫌いという人が多いから、それだけで田舎暮らしを断念したり、反対したりすることもある。また、自分は人付き合いが苦手だか ら、地域コミュニティに入らない「田舎遊び」のほうが向いている、と考える人もいるだろう。しかし、案ずるより生むが易し、ということもある。
   たとえば、蛇が好きという人はめったにいない。私は、毛虫は別としてほとんどの虫やカエルなら素手でつかめるが、蛇をつかむ勇気はない。私の妻も蛇は大嫌 いだったが、慣れてくれば、好きではなくても嫌いでもなくなる。少なくとも、蛇も命あるものとして眺める余裕ができる。
   ある日、我が家の庭先 で、カエルを飲み込んだ蛇がじっと動かなかった。飲み込む寸前で、蛇の口からカエルの両足が出ている。その姿は滑稽でもあり、厳粛な自然の営みでもあっ た。それ以来、妻は蛇と出合っても悲鳴を上げなくなった。家のなかでゴギブリを見たら、未だに悲鳴をあげているけれど。
   蛇は蛇でも、マムシはめったに出合わないのだから、蛇嫌いというだけで田舎暮らしを敬遠するというのは残念なことだ。自然のめぐりのなかで生命の営みを身近に眺めていると、嫌いが好きに変わっていく。田舎の嫌われものは、恐いマムシと臭いカメムシくらいなものだろう。

---- 極楽の余り風

   という美しい言葉がある。この言葉は、丹波新聞に今も連載されている名エッセイ『やすらぎ』の執筆者・清水雅子さんが、それまでの連載エッセイを集めて出版した本のタイトルである(二〇〇〇年、丹波新聞社発行)。
「お盆の里帰りしたとき、『真夏にふと吹き抜ける冷風』のことだと母から教えられたものです」と、その意味を同書の「あとがき」に記している。
   たしかに、真夏にふと吹き抜ける冷風というのは、生命が蘇るような爽快感があり、至福の一瞬である。山や田圃を吹き抜ける風は気が充実している。
   ほんとうの田舎暮らしの醍醐味というのは、この夏の冷風だけでなく、季節の移ろいとともに極楽の余り風を感じられることだろうと、私は思っている。もちろんその余り風には、季節ごとの香りと爽やかな感触がある。
   いきなり定住するのに迷いがあるというなら、週末移住や季節移住で田舎遊びをすればよいし、あるいは2地域居住という選択肢もある。慣れてくれば、田舎暮らしのほんとうの良さ(田舎は極楽)がわかってくるから、この極楽に早く移り住もうという気にもなるだろう。
   先々の老後を心配するのは止めておこう。
   この極楽は、死後世界ではなく、今の世に存在する。
   さぁ、体力のあるうちに、元気なうちに、たんば・田舎暮らしをはじめよう。