なにはともあれ、若者たちよ、どんどん田舎へいらっしゃ~い。

先週、東京から「農的暮らし」を求めて、30歳前のK夫婦が訪ねてきた。

1カ月ほど前、田舎元気本舗のホームページを見たというKさんが、「8月の休暇に、丹波で就農体験できないでしょうか」と電話で尋ねてきた。
「真夏の暑いさなかに、就農体験を数日したところで、どんなものだろうか。一か所で体験するよりも、いろんな生産者を訪ねてみたらどう? 紹介するよ。参考になる本を送るから、とりあえずそれを読んで、どんな人に会ってみたいか考えて、それからまた連絡して」
そう言って、「田舎は最高」と手のひらの宇宙「食と農と里山」の3冊をKさんに送っておいた。
17日の10時頃、奥さんの実家がある鳥取市から車でやってきた。爽やかな好青年、奥さんもチャーミングな女性だ。ただ、二人ともまったく日焼けしていないし、体つきがほっそりして、「農業には向いていないなぁ・・・」と内心思う。それはともかく、長靴・作業服なども用意万端、やる気は十分のようだった。
17~19日の3日間、農家民宿に泊まり、私が紹介した6~7人の生産者を訪ねて、農作業の手伝いもしながら、いろいろと学んだようだ。

初日・丹波市では、あずき工房の柳田さん、木工作家の乾さん、橋本慎司さんや丹波太郎、鳥取から移住してパン屋を営む「花紅」さん、奥丹波ブルーベリー農場の古谷さん。
2日目・福知山市では藤田農園の藤田さんをはじめ山下さん。
3日目・篠山市では「のりたま農園」の坂口さんを紹介した。
19日、私は大阪へ行く用事があったので、帰りしなの夕方にのりたま農園に寄った。
「生産者に話を聞くときは、仕事の邪魔にならないよう、作業を手伝いながら話を聞くように」とKさんには言っておいたが、
「トウモロコシ畑を整理するのを手伝ってもらい、だいぶ助かりました」と坂口さん。
橋本さんのところでは収穫作業、藤田農園でも田んぼの稗取り作業をしたようだし、Kさんは私のアドバイスをきちんと実行してくれたようだ。
4日目の帰りしな、二人は挨拶にやってきた。お茶を飲みながら、3日間の体験の感想を聞いたところ、「みなさん生き方の哲学をしっかり持っておられて、素晴らしい方ばかりでした。この30年間でいちばん充実した3日間で、いろんなことを考えさせられました」とKさんは真面目顔。
「30年間・・・」とはまた大げさな。思わず笑ってしまったが、奥さんによると、Kさんは「石橋をたたいて渡るタイプ」らしい。本人もその点はよく自覚しているし、彼女は「どちらかと言えばわたしの方が活発化かも」と笑う。方向性や夢も共有して、バランスのとれた似合いのカップルだ。(ちなみに二人は結婚2年目で、Kさんの職業は転勤の多い公務員、奥さんは音楽を仕事に)。
「それならなおさらのこと、農的暮らしに入る前の助走期間が大事だね。夢を実現したら夢ではなくなるのだから、いろんな所に行って学びつつ、その助走期間を楽しんだらいいよ。ぼくだって田舎暮らしに入る前、畑の近くに寝泊まりできるインディアンテントをつくって週末農業を7年間やっている。そのときはそのときで楽しかったし、いま思い出しても、あのときはよかったなぁと懐かしく思うものだよ」
なにも先輩風を吹かして言うのではなく、この思いは本(『田舎は最高』にも書いているし、私の実感なのだ。
いま若い世代の間では、K夫妻のように農的暮らしを憧れる人は増えているそうだ。それはそれで大変けっこうなことだとは思うけれど、憧れだけで突っ走ってはどうにもならない。農業はとにかく体力気力にお金もかかるし、専業農家ではなく農的暮らしというなら「半農半X」のXをどうするのか、それを考えて行動に移さないといけない。半農といっても、その比率にこだわる必要はない。家庭の事情、仕事や経済状況などに応じて、一農九Xでも、三農七Xでもいいわけだ。Kさんにはそんな忠告も不要なくらい慎重な性格らしいので問題はないだろうけれど。
なにはともあれ、若者たちよ、どんどん田舎へいらっしゃ~い。
(2015.8.24) 村長 平野