宇宙の中で踊っている? 坂口典和

一九九二年二月。
片道切符でロンドン・ガトウィック空港に降り立ち、とりあえずツアリスト・インフォメーションを探した。

「ロンドンの中心部へ歩いていくには、どう行ったらいいですか」
「ぶっ、ははは。歩いてなんて無理、無理。地下鉄かバスに乗らないと」

世界は、一年で旅をするには広すぎる
無知だった。本当に無知だった。
ロンドンの中心部までガトウィック空港からだと30キロメートルはある。そんなことも知らなかった。果てしなく遠い所に来たにもかかわらず、全くの下調べなしなんて、ばかげてさえいた。ただし、本人はいたって真面目だった。
なにせ、今回の世界旅行の参考にと手に取り、食い入るように字を追いかけたのは、小田実の『何でも見てやろう』(一九六一年発行)という、当時から見ても三十年も前の体験記。本人は参考のつもりだったが、旅のガイドブックというより大変におもしろい読み物という作品だった。そう、何かピントがずれているのだ。
家族には一年で帰って来ると言いながら、内心二年間放浪するつもりでいた。世界は、一年で旅をするには広すぎるから。三年間で貯めた88万円が所持金の全てであったが、何かしら仕事をして少しでも節約せねばと思っていたので、都会(まち)にいる時は、レストランの地下で皿洗いをしたり(イギリス、もちろん不法就労)、地下鉄や駅で歌を歌ったり(パリ)。都会は都会でまあ、おもしろかったのだが、心が安らいだのは田舎にいる時だった。広い空の下でのちっぽけな自分。なにか大きな、大きな自由を感じた。

シュタイナー農場での気づき
最初の訪問地のイギリスでドイツ人の女の子と仲良くなり、別れた後、彼女が働いている農場(シュタイナー農場)を訪れてみた。大きな一軒家に13人が住み(2家族・1カップル・独身者3人)、8時からの朝食後にその日の仕事を割り振る。

続きはPDF(adobe) 宇宙の中で踊っている? 坂口典和
手のひらの宇宙「食と農と里山Vol.1」より
(あうん社 2014年11月11日発行)