「有機農業に必要な経済理論」とは

「効用」の反対を「コスト」と理解し、苦痛を感じる労働がコストである。その仕事が楽しければ、費やした時間はコストではない(J.ラスキン)。


昨日(11月24日)、1年ぶりの薪割り作業に張りきったため、朝起きたとき身体中がギシギシとうめき声をあげていた。この作業は年とともに重労働になってきたけれど、まだ「楽しみ」を感じているから「コスト」ではない。
そもそも経済学というのには昔から関心が向かないし、勉強しようと思ったこともないが、「有機農業に必要な経済理論」というのに感銘を受けた。先週金曜日(21日)、神戸で開かれた「第27回 地域農政フォーラム」に参加し、そこで配られた資料のなかに次のように書いてあったのだ。

 <有機農業に必要な経済理論>
・J.A.ホブソン(John Atkinson Hobson)
―経済学は金儲けではなく、人間生活における生きがいを追求する「思想の一般体系」の一部でなければならない。経済学は社会生活の量的側面のみでなく質的側面をも扱うべき。
・J.ラスキン(John Ruskin)
―「富の本質は人間の生命にある」
―労働の価値は、「労働の中に生命の要素を多く含むか少なく含むかによって、高級労働と低級労働とに分かれる」
―富とは信頼され活力溢れる産業によって生産される財のことであり、無慈悲な詐欺まがいの生産者の下で作られるものは富ではない。「効用」の反対を「コスト」と理解し、苦痛を感じる労働がコストである。その仕事が楽しければ、費やした時間はコストではない。

 ウーン、なるほど。素晴らしい。
この日のフォーラムは「新しい有機稲作と水田除草対策」というテーマに関心があって参加した。水田除草に効果のある「冬期湛水」(冬の間、田んぼに水をはる)や「中干し延期」も大変参考になったが、経済学というのは「金儲け」の理論という先入観がある私にとって、「仕事が楽しければ、費やした時間はコストではない」という言葉は新鮮な感じがした。よく考えてみれば当たり前のことではあるけれど、多くの労働はコストに換算されるからだ。

フォーラムの主催者・保田茂先生(神戸大学大学院名誉教授)は、この経済学理論を「理念」として有機農業を長年推進してきたわけだ。
しかしそれにしても、生産者・消費者共にメリットがあるはずの有機農業が、なぜなかなか普及しないのか(国内で有機農業を営む農家はせいぜい6~7%)。その理由の一つは、農業の営みが、機械化(便利さ)とともに苦痛を感じる「労働」になったからだろう。車社会に馴れきったら歩くのが苦痛(面倒)になるのと同じ理屈だ。
戦後、農薬や化学肥料や機械に頼り切ってきた農家は、その便利さから抜け出せず(というより抜け出す気もなく)、ますます機械貧乏になっていく(米づくりをまともにやろうと思ったら少なくとも2千万円ほどの設備投資が要る)。だから皮肉なことに、農作業が機械化で楽になればなるほど赤字になる傾向にある。
有機無農薬栽培の米はそれなりの付加価値で高く売れるが生産量に限界がある。化学肥料・農薬・除草剤に頼る慣行農法の米は値が下がる一方だから、ずいぶん楽になったはずの米づくりでも大赤字である(今年は米の相場がまた下がったが、TPP以降は、さらにドーンと値下がりすることは目に見えている)。TPPをチャンスととらえる農家もいるがそれはまた別問題だ。
一方の消費者は市場原理での「安さ」ばかりを求め、化学肥料や農薬の有害性に目をつむり有機農業の価値を知ろうともしない。こうして生産者・消費者共にデメリットを共有するという循環が続いている。
なんだかんだといっても結局のところ、より多くの消費者が目ざめなければ(需要が増えなければ)有機農業は普及していかないことははっきりしている。 2014.11.25  (村長 平野)

以下は、フォーラムの資料から抜粋。

生産者・消費者共にメリットのある有機農業
<生産者メリット>
・経費節減
・生産性向上
・収益の安定化
・後継者確保
<消費者メリット>
・安全の確保
・健康増進
<両者のメリット>
・食料の安定供給
・石油資源の節減→地球温暖化対策(1トンの化学肥料を製造するのに760kgの原油
が必要)
・生物多様性の保全→次世代が享受する資源の佃
・地域景観の保全
・地域文化の保全

環境保全型農業直接支払対策の活用(水稲の場合)
化学肥料・化学合成農薬5割減の取り組みとセットで、地球温暖化防止や生物多様性保全に効果の高い取り組みを支援
地球温暖化防止に効果の高い営農活動
緑肥:8,000円/10a
堆肥:4,400円/10a
生物多様性保全に効果の高い営農活動
有機農業:8,000円/10a
冬期湛水:8,000円/10a
(中干し延期:3,000円/10a).

※右上写真は、1kg1200円という「温石米」

ジョン・アトキンソン・ホブソン( 1858- 1940年)は、イギリスの経済学者であり、帝国主義の批判者。
ジョン・ラスキン(1819 - 1900年)は、19世紀イギリス・ヴィクトリア時代を代表する評論家・美術評論家、社会思想家であり、篤志家であった。(ウィキペディアより)