陶芸も田んぼの米も地水火風空ですね

「土と粘土は違いますよ。では粘土とは、どういう形をしているか知ってますか?」

陶芸サークルの恒例ツアーで、鳥取県川原町にある「牛の戸焼き」の窯元を訪ねたとき、その六代目という小林孝男さんがクイズを出した。
参加者9名、だれも答えなかったので、ぼくはあてずっぽうに言った。
「粘土にはアメーバーのような触手があるのでは・・・」と。
「いや、違います。電子顕微鏡で見ると面状になっていて、面の層の間に水分があるとねばりがでる」というような答えが返ってきた。
その現場は、粘土を金づちでこまかく砕いて、水にさらす作業場だった。「粉状の粘土を水でよく漉すと一層きめ細かくなり、女性が好きなおしろいにもなる。乾くとぱりぱりはがれます」と言って笑わせた。飄々としながら冗談好きなようだ。
我々は普段、購入した粘土で陶器づくりをしているので、粘土の化学的個性を少しくらい考えても物理的構造のことなどは考えたことがなかった。
ただ、さまざまな種類の粘土があり、それによって焼く時間も、釉薬の変化も完成時の色合いも全く違うことは知っている。この登り窯では、表土の1~2mほど下から粘土を掘り起こし、寝かして、砕き、水に晒し、漉して・・・作りためた作品を焼成するのは年に一度、1週間ほど火を焚き続けるという。先祖はこの粘土を求めてここに移り住んだ。畑は土づくりから、陶芸は粘土づくりが基本なのだ。粘土がすべて(いのち)、というのは備前でも同じだった。

三朝温泉ホテルに泊まった翌日(7月9日)、備前の窯元に寄った。
一軒目は人間国宝・伊佐崎淳氏(左写真の左)の窯元、2軒目はその本家筋の窯元。両窯元でも粘土を金づちで砕いていた。この手作業が基本なのだという。
「水にさらして漉すこともしますが、砕いた粘土をそのまま使ったほうが表情のある味わいがでますね」と本家筋の窯元の伊佐崎創さん。
なるほど、購入した粘土でもそれはいえる。多少ざらついた粘土のほうが面白いものができる。陶芸はまさに「地水火風空」の世界だが、それは田んぼの米作りにしても同じこと。適度な粘土質と水の良さ、太陽(火)と空気(風空)の流れとで味は決まると言えるだろう。

備前では窯入れして11日間火を燃やし続ける。粘土に含まれる鉱物の収縮率の関係で一気に温度を上るとひび割れてしまうからだという。備前の陶器が、割り高の理由に一つはそこにあるようだ。薪は火力の強い松ばかり、薪小屋に大量に積み上げていた。だが近年、松くい虫で松枯れが増える一方で、いずれは松以外の薪も使わざるえないとのこと。
ちなみに丹波立杭の窯元では、「火入れは3~4日で済むというのは、一気に高温にしてもひび割れしない粘土だから。立杭では松以外の薪も使っている」と、我らが師匠の清水先生は話していた。

備前では、国指定史跡「伊部南大窯跡」にも立ち寄った。立て看板の説明には「一回の焼成で3万4、5千個の製品を、34~35日かけて焼いた」とある。そこは瀬戸内海の港にも近く、江戸方面に大甕などが大量に運ばれたようだ。備前藩の財政もうるおした備前焼は、この物流条件のよさがあればこそ全国ブランドにもなれた。
江戸の町には水道もかなり普及していたようだが、水売り商売もあった江戸時代、水を貯めこむ大甕は台所の必需品だった。焼き締めの備前の大甕は、水を浸透させないという点で優れていたから、備前ブランドは需要の多い大江戸から広がり名を高めたのだろう。

一泊二日(7月8~9日)のこのツアー。マイクロバスのなかではずっと居眠りしどうし。オヤジギャクのギネスブック登録者にもなれるSさんが、ずっと運転してくれたからだ。車窓の風景はほとんど見ていないが、ときどきSさんのギャクに起こされて笑いながら、「鹿やイノシシが出ないのだろうか」とぼんやり頭で考えていた。鳥取の山間の田園風景に防獣柵や電気柵がまるで見られなかったからだ。 
このツアーでは粘土の不思議さを学んだ。我々初心者は土練りから始めるが、粘土そのものを研究する必要があると痛感。また陶芸も米作りも「地水火風空」であることを学んだ
そしてもう一つ参考になったのは、人間国宝のオブジェ作品がフトンに寝かされていたこと。いつかは我もフトンに寝かすほどの大作を創りたいものだ、と。これはもちろん、陶芸仲間に言ってみたい大風呂敷の冗談である。(2014.7.22 ) 

 

※以下は参考まで(これを読むと、粘土にはアメーバーのような触手がある、というのもあながち間違いではないようだが・・・)
「粘土の構造と化学組成」
上原誠一郎(九州大学理学部地球惑星科学教室)

1. 粘土鉱物の分類
粘土(ねんど)は“ねばつち”とも読まれるようにねばりけのある土を意味します。土壌学的には通常0.002 mm (2μm)以下の風化作用を受けた二次鉱物粒子をいいます。一般には水を含むと粘性をもつ土の総称で、各種の粘土鉱物・水分などから成ります。れんが・瓦・セメント・陶磁器の製造原料となります。私たちの身近に存在する粘土ですが、太陽系の惑星の中で粘土が見られるのは地球だけです。水惑星とも呼ばれるように地球表層には液体の水が存在します。この水を結晶の中に持っているのが粘土鉱物です。すなわち、粘土は地球を代表する鉱物です。隕石の研究によって太陽系の形成初期には大量の粘土鉱物が形成されたことが知られていますが、現在も粘土が形成されているのは地球だけでしょう。

 鉱物は地質学的な過程で生じた結晶質(一部には非晶質)の元素あるいは化合物です。多くの粘土は単一のあるいは複数の鉱物からできています。粘土を作る鉱物の結晶のサイズや結晶性の程度には普通の鉱物と比べ著しい違いがあることも多く認められます。粘土の主体をなすものは層状珪酸塩鉱物です。その中でもカオリン鉱物、雲母粘土鉱物、スメクタイトおよび混合層鉱物は微粒の鉱物として粘土中に広く産する典型的な粘土鉱物です。蛇紋石鉱物、タルク、緑泥石、バーミキュライトなどは粘土鉱物としても見いだされますが、結晶の大きな鉱物と共に粘土以外の岩石の構成鉱物として産出することが多いようです。けれども、これらは鉱物学的にみると典型的な粘土鉱物と密接な関係があり、粘土鉱物として取り扱われます。

 層状珪酸塩(layer silicate)鉱物は構造的な特徴と化学的な特徴に基づいて分類されています(表1)。層状珪酸塩はフィロ珪酸塩(phyllosilicate)とも呼ばれます。この特徴は雲母(ウンモ、あるいはウンボ、キララともいいます)に代表される平行に薄くはがれやすい性質です。昔は“千枚はがし”ともいっていました。この性質は劈開(ヘキカイ)といいますが、雲母の原子配列の特徴を反映したものです。Si-O四面体が平面的につながっている構造が基本となっています。単位構造の中に雲母はこのSi-O四面体シートを2枚と八面体シートを1枚含みます。カオリン鉱物ではそれぞれ1枚づづ含んでいます。