リンゴの裏側だけ齧っていた賢いネズミの話

「夜中に何べんもトイレに起きて寝不足です。薬のせいかと思うので、どうにかならんでしょうかと医者に言ったら、『私の治療方針が不服なら他所に言ったらいい』と言われてしまって。

腹が立って、すぐ医者を変えたけどね」とEさんは苦笑しながら言った。

「気候が暖かくなったら血圧も下がるけど、足元から冷える冬はとくに血圧が上がってね。がんがん飲んでいた酒を止めてからはだいぶ体調はよくなったけど、それでも冬はだめだね」
Eさんはアイガモ米も1町ほど作り、平飼いの鶏600羽ほど飼って毎日卵を出荷しているから、どこにも出かけられないほど忙しい。神戸市にある某大手企業を早期退職して丹波市市島町で新規就農してまる10年になる。
真冬でも、鮮度が命の卵を出荷する作業所にはストーブを入れられないから、足元からジンジン冷えるのだ。
一人暮らしの家に帰ってストーブを焚いても、外気と同じくらい家全体が冷え切っているので、「1時間たっても全然温もらん。なにしろ昔の古民家だから隙間風が寒いのなんのって」
東北は秋田の出身だが、それでも底冷えの寒さがこたえるという。

消費税が上がって鶏の餌代も上がったこと、高血圧の薬のことで医者に不信をもったこと、家の寒さのこと、年に1度も来るか来ないかの4人の子供のこと、年寄りだけでなく未婚のままの一人暮らしも増えていること、毎日の食事のこと等など、近況や世間話を聞いたあと、天井裏で運動会をしているネズミの話になった。

「古民家をリフォームする時間もないので、ネズミも住み着いたまんま(笑)。夜中になると奴らは天井の上で運動会を始めるから、これも寝不足の原因かな(笑)。奴らはまたすごく賢くてね。ある日、仏壇にお供えしていたリンゴを食べようとしたら、半分ほど齧られていた。仏壇の正面から見えない裏側の部分だけ齧っていたので何日も気づかなかった。しかも障子に穴をあけて入ってきてね。まったく、ネズミの奴は賢いねぇ(笑)」
ネズミがネズミ小僧のように障子に穴をあけて、リンゴを音もなくかじっている図を想像した。
そこでぼくは思わず爆笑すると、Eさんも一緒になって大笑いとなった。秋田弁の訛りはないが、他人事のように淡々とした一本調子で話すものだから、なおさらにおかしい。1分ほど大笑いしていたら笑い涙が出た。
仏壇には丹波に移住する前に亡くなった奥さんが祀られているのだろうが、賢いネズミのことが話のオチとなり、一緒に爆笑できたことは幸いだった。 (2014.4.13)