「ここ掘れ、ワン、ワン」 

ボール拾いで遊んでいた気まぐれミッチーが、急にボールを追いかけるのを止めて、ものすごい勢いで畑の一角を掘りはじめた。

モグラでもいるのだろうか。掘った穴に鼻を押し付けてくんくんくんくんやりながら、両手で土を後ろへ飛ばす。
ボール拾いにしろ穴掘りにしろ、ミッチィーのすることはこの7年間ちっとも変わらない。当然のことながら、犬の本能はまったく変わらないのだな、と妙に感心させられる。
3年前の6月にマムシにかまれたがケロッとしていたし、この3月は狸と取っ組み合いになり鼻を齧られた。狸を殺しかねない勢いだったので引き離したが、これも本能のありようなのだ。雪の積もった日には野生を爆発させ、雪の畑を繰り返し猛ダッシュする、そのフォームの美しさ。とにかく辛抱強く元気で、毛の色艶がよく、7年間で食欲がなかったことは2度しかない。
道の駅で拾ったのでミッチィーと名づけた。5月で満7歳になるから、いつも買っている1~6歳用のドッグフードもそろそろ変えないといけないのかなと思っていた。
数日前、そのドッグフードを買って物置に入れていた。庭で薪小屋を作っていると、それを見たカミさんが、「ミッチィーの歳はいくつだと思ってるの」と言ってきた。
「7歳だよね」と答えると、
「何言ってるの、5月でもう9歳になるのよ」と笑って言う。
「えっ、ウソ!」
「だって、丹波に越してきたのが2004年で、道の駅が出来た2005年にミッチィーを拾ってきたのよ。バーゲンで10歳用のドッグフードが売っていたから買ってきたわよ」
「・・・・・」
ということは、今年は丹波に越してきて10年目なのだ。11年目だとずっと勘違いしていたが、ちょっと得をしたような気がした。
庭の木々は年々大きくなり、満開になった桜の花も年々豪華になってきている。ところが柴犬の雑種・ミッチィーの身体つきや体重などは、成犬になってからほとんど変わっていない。やさしい性格も顔の表情も、することなすことも全く変わっていない。そのせいでぼくの頭のなかでは、彼女の年齢がすすんでいなかったのだ。彼女のためにも、何だか得したような損したような・・・複雑な気持ちになったのだった。
ここ掘れ、ワン、ワン。
興奮して勢いよく穴掘りをするミッチィーを眺めながら、人間の本性あるいは本能とは、何なのかとふと思う。
いじらしくも嬉しいことに、今日もミッチィーは犬の本性のままを生きている。  (2014.4.13)