「料理人でいる限り、地域農業の応援はライフワークだ」

野菜のおいしさに打ちのめされた。パリには国内外から豊富な食材が集まるが、食材から「生命感」が失われていることに気付いた。


地産地消(レストラン経営) 道下 克雄さん 鹿児島県指宿市

鹿児島県指宿市でレストランを経営する道下克雄さん(43)は、料理に地元の食材しか使わない地産地消シェフ。かつては東京やパリで腕を振るったが、「本当のおいしさは、食材がとれるその土地でしか味わえない」と帰郷。2012年には市内6店の飲食店の店主で「お野菜ひろめ隊」を結成した。毎月のように市内外で販売会や食のイベントを開き、指宿の野菜PRに一役買っている。

・自分が料理人でいる限り地域農業を応援していきたい

 道下さんのレストラン「サリュー」は、JR指宿駅前商店街を1本入った路地にある。昼時になればテーブルの16席が観光客と地元客で埋まる。調理場には当日仕入れた山盛りの野菜。市場や直売所、生産者など多様な仕入れ先から新鮮な食材を調達、旬を感じる一皿を作り出す。
「春は菜の花やタラの芽、ソラマメなどが短い旬を迎える。ジャガイモやニンジンも新物がおいしくなる」と道下さん。同市は牛・豚の畜産から野菜、サツマイモ、熱帯果樹まで生産する有数の農業地域。半径10キロ以内で何でもそろうのが自慢だ。

 同市で生まれ育った道下さんは18歳で上京。レストランでのアルバイトがきっかけで料理人を志すようになり、和食の道に入った。10年間の修業の末フランスへ渡り、2000年から5年間、パリで活躍した。

 転機となったのは、食材の産地を巡ろうとフランスを縦断したときだった。ジャガイモもキャベツも、土地ごとに味と香りが違う――。野菜のおいしさに打ちのめされた。パリには国内外から豊富な食材が集まるが、食材から「生命感」が失われていることに気付いた。

 そんな時、思い出したのが故郷、指宿だ。「どこにでも畑があって、農家でなくてもその時期の新鮮な食材が手に入った。指宿での料理はパリや東京での料理よりもおいしいはずだ」。道下さんはパリを離れ、05年に指宿に店を構えた。

 店のテーマは全ての料理を指宿産の食材だけで提供すること。そんな姿勢に共感した生産者の仲間もできた。「決して大きな店ではないけれど、使う食材はどこにも負けない」と胸を張る。

 産地に元気がなければ、地産地消は続かない。道下さんは、市内飲食店の店主でつくる「お野菜ひろめ隊」の隊長も買って出る。毎月のように食に関するイベントを計画。駅前商店街や港の公園で開くマルシェには、地元客も観光客も集まるようになった。

 農業の将来を担う農業高校の生徒にも地域の魅力を知ってもらおうと、隊では県立山川高校、JAいぶすき豆類部会を巻き込んだ「豆・マメ・まめ祭り」も開催。地元の農産物を使ったレシピを一緒に開発する他、祭り限定でレストランを開き「宝は足元にある」と伝えている。「指宿でなければ自分の料理はできない。料理人でいる限り、地域農業の応援はライフワークだ」。海外の食を知り尽くす料理人は、指宿で最高の料理を生み出そうと今日も腕を振るう。(岩本雪子)

日本農業新聞(e農net) より (2014/4/7)