『ファストフードが世界を食いつくす』~ 全米べストセラー・ノンフィクション

これは、義憤の書である。アメリカ人にとっての憂国の書でもある。だが、もちろん、メッセージは地球上のすべての消費者に向けられている。(訳者あとがき)


毎日、何億人もの人々が、深く考えることなく、自分の行動の間接的あるいは直接的な派生効果に気づくこともなく、ファストフードを買っている。彼らはこの食べ物がどこから来るのか、どうやって作られるのか、そして周囲の共同体にどんな影響を及ぼすのかなど、まずもって考えない。ただ漫然と、カウンターからトレーを持ち上げ、テーブルを探して席につき、包み紙をあけてかぶりつくだけ。この一巡の行為は束の間のものであって、すぐに忘れ去られる。わたしが本書を著したのは、フアストフードを買うという晴れやかで楽しい行為の裏側に潜むものを、人々は知っておくべきだと考えたからだ。あの胡麻のついたパレスのあいだに、本当は何か隠されているのかを。古いことわざにあるように、「人の体は食べ物しだい」なのだから(「はじめに」より)

以下は「あとがき」より
消費者の怒りが予想されるというだけでも、マクドナルドは納入業者に変化を要求する。二〇〇〇年春、マクドナルドは、ラムーウェストンとJ・R・シンプロット社に対し、遺伝子組み換えじゃがいもを使った冷凍フライドポテトは、今後いっさい購入しないと通知した。その結果、この二大加工業者は、生産農場に、遺伝子組み換えじゃがいもの植え付けを停止するよう命じた。そしてモンサント社の〈ニューリーフ〉というわが国唯一のバイオじゃがいもの売上げが、一気に減退した。マクドナルドはその一年前から、西ヨーロッパでは遺伝子組み換えじゃがいもの使用をやめていた。あちらでは。怪物食品”問題が非常に関心を集めていたからだ。アメリカでは、遺伝子組み換えに対する消費者の反発は、比較的小さかった。にもかかわらず、マクドナルドは行動を起こすことを決めた。論議を呼ぶ恐れかおるというだけで、購入方針がすばやく変更され、それが国の農業に重大な影響を及ばすことになったのだ。
ファストフードの巨大企業に立ち向かうのは、至難の業に思えるかもしれない。(略)
われわれは誰ひとり、ファストフードを買うことを強制されてはいない。意味ある変革への第一歩は、あまりにたやすい。ただ買うのをやめればいいのだ。ファストフード業界のお偉方たちは、なにも悪い人間ではない。彼らはビジネスマンだ。もしわれわれ消費者が要求すれば、放し飼い・草育ちの有機牛肉を使って、ハンバーガーを作ってくれるだろう。利益を得られるなら、彼らはなんでも売る。市場というものの効用、手段としての有効性は、諸刃の刃(やいば)だ。消費行の持つ本当の力は、まだ発揮されていない。(略)
そしてマクドナルドの社長たちは、恐れを知るべきだ。数ではこちらが優っているのだから。あちらはたったの三人で、こちらは三億だ。効果的なボイコット、つまり購買拒否は、言葉以上に語る力を持つ。最も抑えきれない力とは、とさとして、最も平凡であったりするのだ。
ガラスの扉をあけて、ひんやりした一陣の空気を肌に受け、列に並ぶ。そして、周りを見てばしい。調理場で働く若者たち、席に座った客たち、最新のおもちゃの広告を見て、カウンター上部の、バックライトに照らされたカラー写真をしげしげと見つめて、これらの食べ物がどこから来るのか、どこでどのように作られているのか、ファストフードを買うという行為ひとつひとつが、何を引き起こしているのか、近くで遠くで、どんな波及効果を及ぼすのか、考えてほしい。そして、注文をする。あるいは、後ろを向いて扉から出ていく。今からでも遅くはない。このファストフード国家で暮らしていても、あなたは、自分の好きなように行動することができるのだから。(「著者あとがき」より)

以下は「訳者あとがき」

 本書は、気鋭のジャーナリスト、エリックーシュローサーが徹底的かつ包括的な取材のもと、大巨人ゴリアテたるファストフード帝国に敢然とたたきつけた挑戦状である。そもそもは、若者向け雑誌(ローリンダーストーン》に掲載された二部構成の告発記事だったという。
ファストフードーチェーンの利益は社会全体の損失によって成り立っているという激越な主張は、大きな反響を呼んだ。“社会全体の損失”とは、例えば、国民の肥満率の急騰、食品由来疾患(O‐157による食中毒など)の多発、牧畜業や精肉業の斜陽化、チェーン自体の従業員の待遇の劣悪化などだ。
シュローサーはその後、さらに広範な調査と取材を続け、あらゆる角度からファストフード業界の暗部をえぐって、この『ファストフードが世界を食いつくす』を書きあげた。
第一章~第四章では、ファストフード草創期のカリフォルニアの人物模様が鮮烈に描かれ、当時の熱気ときらめきが生々しく伝わってくる。(略)
第五章~第十章では、ファストフードのさまざまな現場から、進行中の出来事が実況中継される。アイダホのじゃがいも畑、コラロドの牧場、肥育場、食肉処理場、公立学校、ファストフード店の店舗……。まさに背筋の寒くなるようなルポルタージュだ。(略)
そして、終章では、その絶望の淵から這い上がるための、希望の道筋と現実的な対案が示される。消費者の力を、消費者自身が信じ、行使せよ、と。
これは、義憤の書である。アメリカ人にとっての憂国の書でもある。だが、もちろん、メッセージは地球上のすべての消費者に向けられている。この均質化された風景は、今や、世界のどの土地でも目にすることができるのだから。
本書を読んだあとで、読者が口にするチーズバーガーとフライドポテトは、かなり違った味がすることだろう。いや、数多くの読者が、黄金のアーチをくぐる前に、あるいはカウンターで注文の品を選ぶ前に、その食品のたどってきた道筋に思いを致すことだろう。
二〇〇一年七月 

出典:『ファストフードが世界を食いつくす』エリックーシュローサー 楡井浩一訳 草思社(2001)

コメント:ファストフードとは、もちろんマクドナルドのこと。いまやアメリカでも悪名高い同社だが、モンサント社の遺伝子組み換えじゃがいもの使用をやめたというのは評価できる。
草思社の知り合いの編集者から聞いた話では、本のタイトルは「マクドナルドが世界を食いつくす」との案もあったらしいが、帯に「マクドナルド方式」と書くだけに止めたという。ちなみに原書タイトルは「FAST FOOD NATION」。
本書の帯に「全米べストセラー・ノンフィクション」とあり、アメリカの”良心”を感じさせるが、はたして日本(草思社)ではどれくらい売れたのかが気になる。手元にある本書の奥付は「2001年9月14日 第8刷発行」とあり、第1刷発行が同年8月14日だから発売当初の勢いはあったようだ。しかし日本ではべストセラーになっていないのでは? だとすれば、とても残念に思う。
残念といえば、草思社は問題作をいろいろ出版するとても良い出版社だったが、この数年後に倒産して他の出版社(文芸社?)に買収されてしまった。本業以外(不動産関連)で経営難に陥ったと聞いたので、なおさら残念。