哺乳動物としてはラクターゼが分泌されなくなるほうが正常な姿

「乳糖不耐症」「牛乳不耐症」などといわれます。病気のような錯覚を与える呼称ですが、これは病気ではありません。


牛乳でカルシウムは吸収できるのか? ―― ラクターゼ活性の変化

現在の日本では骨粧しょう症の増加が指摘されています。「予防のためにはカルシウムを」「カルシウムを摂るためには牛乳を」としきりにいわれています。さて牛乳を飲んだら骨粧しょう症は予防できるのでしょうか。国民栄養調査の結果からも、カルシウムは日本人に不足した栄養素だといわれ、一日六〇〇ミリグラムも摂るようにいわれていますが、どんなものでしょうか。
確かに「日本人の栄養所要量」では一日六〇〇ミリグラムとなっています。そして欧米人が1000ミリグラム前後のカルシウムを摂っているのと比べると、少ないのも事実です。私たちの目は常に欧米に向いていますが、少しだけ視点を変えてアジアやアフリカの人々についても見てみましょう。アジア人、アフリカ人のカルシウム摂取量は、一日四〇〇ミリグラム以下です。そして日本人のカルシウム摂取量が初めて四〇〇ミリグラムを超えたのは、一九六二年のことでした。日本人の長い歴史を考えると、ほんの一瞬前のことだといってもいいでしょう。そしてその当時の骨組しょう症が、欧米人と比べて少なかったのも事実です。
確かにカルシウムは骨の主成分ですが、どうやら多く摂りさえすればいいというものではないようです。
牛乳を飲んだ後で下痢をしたり、お腹がごろごろ鳴ったりする人は少なくありません。このような人は「乳糖不耐症」「牛乳不耐症」などといわれます。病気のような錯覚を与える呼称ですが、これは病気ではありません。あなたが哺乳動物として正常に離乳していることを示す証拠でもあります。
牛乳だけではなく、人乳や牛乳を含むほかの動物の乳には「乳糖」が含まれています。乳糖はグルコースとガラクトースからなる二糖類で、ラクターゼ(乳糖分解酵素)によってグルコースとガラクトースに分解されます。このラクターゼは乳児期には分泌されていますが、離乳期以後は分泌されなくなります。この特徴は哺乳動物に共通のもので、日本人を含むアジア人、アフリカ人なども同じように推移します。
ラクターゼが分泌されかくなってから、すなわち離乳が終わってからは、乳糖の分解ができなくなります。そうなると腸管に対する刺激が強くなって、下痢などの症状を示すようになるのです。それを乳糖不耐症と病名のように呼んでいますが、哺乳動物としてはラクターゼが分泌されなくなるほうが正常な姿で、日本人などは当たり前の状態ですから、病名のようないい方は誤りです。
なぜ乳糖不耐症のような名前がついたのでしょうか。それは、成人になってもラクターゼを分泌しつづける人が多いヨーロッパで発見されたからです。ここでも(ヨーロッパの中での)多数派の原理が働いているようですが、世界に目を向けるとヨーロッパ人のようなヒトはむしろ少数派、哺乳動物の中の例外です。
(略)
宣伝されているように、乳類に含まれるカルシウムがよく吸収されるというデータもありますが、それはヨーロッパ人のようにラクターゼの分泌が続いている人たちのもので、日本人など哺乳動物として正常な人たちのデータではありません。
日本人でも乳類の摂取を続けていると、乳糖の分解ができるようになるといういい方もあります。いつかどこかでヨーロッパ人のように突然変異が起こって、乳糖が分解できるようになるかもしれませんが、それには数千年から一万年も先のことでしょう。現在、下痢などの症状が出ないという人もいます。そのような場合は腸内菌叢が変わってしまっていることも考えられます。腸内菌叢の変化は結腸がんの誘引にもなりかねません。日本人にとって最も大切なことは一刻も早く完全に「離乳」することです。
カルシウムは牛乳からではなく、緑色野菜、大豆製品、小魚、海草などから摂るほうがよいでしょう。六〇〇ミリグラムの摂取は難しいですが、日本人の過去の実績や、他のアジア人、アフリカ人などの状況から、四〇〇ミリグラム程度で十分でしょう。

著者紹介
宮崎大学教授.医学博士.
1938年東京生まれ.東北大学農学部卒業.1976年秋田大学助手,講師,助教授を経て1993年より現職.この間1978年よりブラジル国リオ・グランデ・ド・スール・カトリック大学客員教授.主な著書に『食と健康を地理からみると』『動物としてのヒトを見つめる』『無意識の不健康』(以上,農文協),『完全米飯給食が日本を救う』(井上ひさし他と共著,東洋経済新報社)などがある。

出典:『伝統食の復権』島田彰夫 東洋経済新報社(2000)

コメント:いまだに「牛乳信仰」が根強いのはどういうことなのだろうか? 日本人の体質がが欧米人のように突然変異したはずもないし・・・・。西洋文明信奉(コンプレックス)や科学盲信、はたまた誇大宣伝などによって西洋輸入の栄養学に洗脳されているからだろう。