タヌキがハヌキになったのどかな春の午後

村長がこの春最後の薪づくりをしているところへ、油売りのKさんが1組の会計袋をもってぶらりとやってきました。

野上野1組の決まり事で、これまで組長をしていた人が次に会計係のお役が回ってきます。その引き継ぎにきたのです。
Kさんは銀行通帳やノートを袋から出して村長に説明したあと、「やっと歯が全部揃ったで」と自慢げに言って笑いました。これ見よがしに白い歯を見せながら。Kさんは上下合わせて歯が十本ほどしかなかったのです。
「ほぉ! すごい。これで固いせんべいも食べられるね」
「アカン! せんべいもタクワンも要らんわ!」
「まぁ、そう言わんと、いっぺん試してみようよ。ばりばり、ぼりぼり、痛快だよ」
「いや、あかん、あかん。歯が折れたらどないするんや。これ、高かったんやで」
「・・・・困ったねぇ。アレ、ひょっとしてお宅は狸さんじゃないですか?」
村長はいきなり言いました。
「あははは・・・何言いだすんや」
「いえね、先日、うちのミッチィーが狸を捕まえまして。いまにも殺しそうな勢いだったんで、ミッチィーを狸から引き離したんや。もう死んだかなと思ったけど、数分後に現場にもどると狸はいなくなっていた。狸寝入りをしていたんだね。狸を助けてあげたので、そのお礼にきたのかと。どれどれ、シッポは?」 
「どうも、その節は命を助けてくれて、ありがとうございました。オイオイ、わしに何言わせるんや、あははっ」
この会話を聞いていたカミさんが横から言いました。
「狸さんじゃなくて、ハヌキさんだったのね」
「オッ、こりゃまいった! 座布団二枚や、あははっっ」
「ハヌキさん、おせんべいがだめなら、いつか、たこ焼きパーティーしましょうね」
と、カミさんが言いました。
「たこ焼きかぁ、いいな。タコぬきじゃないやろうな、あははっ」
ハヌキさんはいつもの大声で笑いながら帰っていきました。
のどかな春の午後でした。   (2014.3.29) 村長 平野