遺伝的に均一な作物が疫病にかかるのは時間の問題であった

ある作物が遺伝的に均一になると、結局その作物を破滅させる流行病を招き寄せることになる。

画一性それ自体は、作物育種計画にかかわる遺伝的変異の不足に起因するほか機械収穫への適性、加工適性といった市場に固有の圧力によって生じると考えられる。ヴァヴィロフ・センターの「侵食」が拡大するにつれて、先進工業国で作物の病気が流行する危険性は増大するであろう。南部トウモロコシゴマ葉枯病は、各大陸共通の流行病の長い歴史のもっとも新しい例にすぎない。

 歴史上、ヨーロッパにおけるもっともドラマティックな事例としては、1840年代の後期におけるアイルランドのジャガイモの大飢饉がある。 1978年夏の植物育種に関するヨーロッパ・シンポジウムでJ.G.ホークス博士は、この破壊的なジャガイモの疫病のルーツを南アメリカに求めることができると発表した。
16世紀にイギリス探索隊はカリブ海沿岸からただ1品種のジャガイモを持ち帰った。これは北部ヨーロッパのいたるところで栽培されたので、この遺伝的に均一な作物が疫病にかかるのは時間の問題であった。かくしてアイルランド人はきわめて短期間に大切な主食用資源を失い、その結果少なくとも200万人が餓死し、さらに200万人以上が新天地を求めて他国に移住した。それ以来ジャガイモの品種の多様化に大きな努力が払われてきたが、ヨーロッパはまだこの病気に対して弱く、さらに多くの遺伝的素材の必要性に迫られている。(続く)

ヴァヴィロフ・センターとは

人々が食物としているすべてのものの原産地をたどっていくと、事実上12地域にも満たない、きわめて遺伝的多様性に富む中心地に至る。これが、いわゆる「ヴァヴィロフ・センター」と称されるものであり、1920年代の植物学界に大きな影響を与えた偉大なソ連の科学者の名前に因んでつけられたものである。
多年にわたる探索によって、N.I.ヴァヴィロフは地球上の耕地の4分の1にも満たない地域に由来している今日の主要作物のほとんどが、さまざまな地勢、気候および栽培法の組み合わせによってもたらされたのであると結論した。
その主要地域は地中海、近東、アフガニスタン、インドービルマ、マレーシア、ジャワ、中国、グアテマラ、メキシコ、ペルー、アンデスおよびエチオピアである。(本書より)

出典: 『種子は誰のもの』 P.R.ムーニー (財)木原記念横浜・生命科学振興財団 監訳 八坂書房(1991)

コメント:「種子は人類共有の財産であり、私物ではない」という観点から、種の多様性を破壊する遺伝子組み換え種(「緑の革命」)の恐ろしさを訴えている。本書の出版から20年以上経過しているが、ビル・ゲイツも出資するモンサント社の遺伝子組み換え種子は世界各地の農場で問題を引き起こしている。多様な文化を破壊するグローバリズムは遺伝子組み換え種子のようである。

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作物遺伝資源の収集・保存・活用

独立行政法人 農業生物資源研究所 
研究主幹 兼 ジーンバンク長 河瀨眞琴