日本の素晴らしさは、都会と地方が車の両輪のように・・・

東京に住むフランス人ジャーナリストのレジス・アルノー氏は、日本の治安の良さや極端に大きな貧困や格差を生まない社会的連帯意識に

驚嘆する記事を最近の雑誌に書いている。

「日本が安全なのは警察のおかげじゃない。では、日本にあってフランスにないものは何だろうか。……日本では経済は低迷しているが深刻な失業問題はなく、貧困もフランスほど過酷ではない。一億二〇〇〇万人の一人一人が「安全網」をつくり上げている。この共同体意識は日本の「資産」だ」
以上のようにアルノー氏は、日本社会の治安の良さ、秩序感覚、大きな格差を認めない平等意識などの源泉を、日本が伝統的な共同体意識をうまく保ったまま、巧みに近代社会をつくり上げたことに求めている。

中国出身の比較法学者の王雲海氏も、日本の安定した秩序の要因を共同体の伝統に求める。王氏は、日中の社会を比較しつつ、日本の秩序の根底にあるのは「文化」だと述べる。王氏がここで「文化」と称するのは、何ら高尚な意味を含むものではなく、伝統や慣習、常識などの非法律主義的で非権力的なものである。王氏は、他方、中国の秩序を形づくっているのは、むき出しの政治権力だと指摘する。
王氏によれば、日本は、大陸国家である中国と異なり、民族の移動や対立がほとんどなく、
定住型の社会を長くつくり、それが保たれてきたため、「文化」にもとづく秩序形成が発達したと解釈する。日本では、大部分の人は地域社会に代々結ばれていて、流動性は低かった。そのため他者との深刻な軋蝶を避け、互いに配慮し合い、長期的な信頼を大切にする道徳が発達したと考えるのである。対照的に中国は、人々の流動性や多様性が高く、前述の意昧での「文化」が秩序形成力をもたず、政治権力で半ば強引に社会を統合していると見るのだ。

同じように、生態学者の高谷好一氏も、日本人の秩序感覚を育んだのは地縁型の共同体の伝統だという見方を提示している。高谷氏は、日本の農村には、現在でも「稲作水利のためのいろいろな共同作業や話し合いがあり・・・実効力のある自治会活動がある」と指摘する。高谷氏は、日本の素晴らしさは、都会と地方が車の両輪のようになっていることだと述べる。都会が近代的な経済発展を先導し、人を育てる伝統を堅持する地方がそれを支えていると論じるのである。
しかしTPP加入後は、人の移動が高まり、これまで保たれてきた日本の社会的・文化的基盤は揺らぎ、秩序形成原理が変化することが想定される。(続く。第6章 207~209Pより)

序にかえて/中野剛志
第一章:世界の構造変化とアメリカの新たな戦略/中野剛志
第二章:米国主導の「日本改造計画」四半世紀/関岡英之
第三章:国家主権を脅かすISD条項の恐怖/岩月浩二
第四章:TPPは金融サービスが「本丸」だ/東谷暁
第五章:TPPで犠牲になる日本の医療/村上正泰
第六章:日本の良さと強みを破壊するTPP/施光恒
第七章:TPPは国家の拘束衣である/柴山桂太

出典: 『TPP黒い条約』中野剛志・編 集英社新書(2013)

コメント:本書はいろいろな角度からTPP後の「負」を挙げているが、残念なことに(おかしなことに)食農については取り上げていない。日本の農業とTPP問題を真面目に論ずる人たち(マスコミや政府機関)も、モンサント社の遺伝子組み換え種子や農薬の脅威などについてはなぜか隠そうとする。
いずれにしろTPPの悪影響はあらゆる分野に及ぶことは、もはやおサルさんでも想像がつく。しかし、なんだかんだと反対しても日本をはじめ多くの国々は、アメリカの国家戦略(グローバリズム)とその裏にいる者たちの魔手から逃れることはできそうもない(同じ時代に生きているという意味で)。彼ら(推進者)が言うようにこの流れは歴史的必然であるからだ。でも、だからと言って悲観することもないし、悲観してはいけないと思う。それこそ彼らの思うツボだからだ。歴史的必然であろうがなかろうが、ひとりひとりの意識の持ち様でそれは変えられる(変えないといけない、ともいえる)。
丹波に移住して11年目、集落の「和の精神」を強く感じている今、
「高谷氏は、日本の素晴らしさは、都会と地方が車の両輪のようになっていることだと述べる。都会が近代的な経済発展を先導し、人を育てる伝統を堅持する地方がそれを支えている」という点に共感を覚える。
TPPによって、日本の良さと強みを破壊させないためにも、この両輪の役割・機能をさらに高めていく必要があるだろう。人を育てる地域(地方ではない!)は、食農や自然環境を守る地域でもあるわけだから。  村長