作物には肥料が必要という固定観念を壊す

農薬も肥料も堆肥も要らないと聞いて、みなさんが不思議に思われるのは、やはり肥料
や堆肥もやらずにどうやって作物が養分を得るのかということでしょう。

それは「肥料・堆肥を施用しなければ作物は満足に生長しない」「肥料・堆肥が効いてこそ立派な作物ができる」という固定観念に支配されているからだと思います。
この農法に取り組むうえで、何よりも障害となるのが、実は私たちが持っているこうした固定観念です。この固定観念を自ら一度壊してしまわないと、自然のなかに用意されているはずの「答え」を見つけることはできないでしょう。

なぜ、肥料・堆肥が要らないのか? 作物に施された肥料が、作物の生長に実際にはどの程度役に立っているのか、少し考えてみましょう。
まず、畑に植えられた作物に、10㎏の窒素肥料を与えたとします。このうちのなんと半分にあたる約5㎏は、ガス化して大気中へ拡散してしまいます。そして残った5㎏のうち、そのまた半分の2.5㎏を上が吸収します。

土といっても実際に肥料分を消費するのは土中に棲むバクテリアです。最後に残った2.5㎏。しかしこれがまるまる作物の取り分となるわけではありません。周囲に生える雑草との競合になるわけです。結局、作物がありつくことのできる肥料分は1㎏ほどにしかなりません。つまり施用した肥料のうち、作物の養分として役立つのはわずか1割にすぎないのです。
しかも悪いことにガス化した5割の肥料分は環境汚染の要因となってしまう。加えて与えすぎた肥料は、作物に硝酸態窒素という形で蓄積されて、それを食する人間の健康を阻害します。私には、肥料を使うメリットよりも、圧倒的にデメリットのほうが大きく感じられますが、いかがでしょうか。

では、肥料も堆肥も与えられずに、作物は何を養分として育つのでしょうか。もともと土壌には肥料を施さずとも、ある一定の有機物が含まれているものですし、土壌中のバクテリアがこれを分解することで、植物が吸収できる窒素化合物ができることになります。
何も使用せずに作物を育む力、それこそが第1章で述べました土の「偉力」です。人手の入らない山でドングリの木を健全に生育させる、自然環境のバランスの力です。(続く)

出典: 『自然栽培ひとすじに』 木村秋則 創森社

コメント:自然農法のリンゴで超有名人になった木村さんが言うだけに、すごいい説得力。うーん、わかっているけど・・・。化学肥料や農薬はもってのほかだが、つい完熟有機肥料を入れたくなる。とはいえ、一歩でも近づきたい。
消費者も、有機無農薬栽培の野菜にはずいぶん関心をもつようになったが、農家のなかには、いまだに自分の自家用と出荷用をわけて栽培している人も少なくない(もちろん自家用には農薬散布なし)。自然農法・有機農業が言われているほど広まらないのは、それでもかまわない(農薬・化学肥料もOK)という消費者(小売り業者)が、圧倒的に多いということになる・・・。