"極楽とんぼ "に生きる

氷上回廊の昆虫にひかれ
「失われた田舎の良さ」を求めて----。田舎暮らしを始める人たちの動機の一つはこれに尽きる。が、大塚さん夫妻の場合、「昆虫たちが多い田舎」という条件がつく。
大塚剛二、千鶴子夫妻  篠山市藤阪


氷上回廊の昆虫にひかれ

極楽とんぼ1

「失われた田舎の良さ」を求めて----。田舎暮らしを始める人たちの動機の一つはこれに尽きる。が、大塚さん夫妻の場合、「昆虫たちが多い田舎」という条件がつく。

二人とも「昔はホンマの田舎があった」という枚方市出身。昆虫少年だった剛二さんは、篠山市内にあった兵庫農大(現・神戸大学農学部)を卒業。大阪府で中学校の理科教師となり、「土・日は虫を追いかけて」丹波地方に通い続けていた。

千鶴子さんは洋裁店を営み、洋裁教室で手芸を教えていたが、少年のままの夫の後ろ姿に呆れつつ、「わたしのほうが田舎暮らしに積極的になった」という。

   平成二年、現在地に近い桑原に小さな家を買った。週末と休暇をそこで過ごすようになると、ますます都会から離れたくなった。子どもがいないこともあり、一大決心。剛二さんは教師を辞め、千鶴子さんは洋裁店をたたんだ。枚方の自宅は売却、桑原の家は住むには小さかったので別の空家を探してもらった。

「案内された空家の床はあちこち穴が開いていたけれど、柱までシロアリにはやられていなかった。裏庭に回るとジュクジュクとじめっぽい。ところがシュウメイギクが一面に生えていたので、よしここに決めた、と」
その空家を改築して移ったのは平成五年三月。

◆  ◆  ◆

「氷上回廊というのは南方系と北方系の生物が混ざって、昆虫の種類が多いし植生もゆたかなんです。疎遠になっていた人たちや昆虫仲間、地域の人との交流も深まったのは虫たちのおかげですよ。ここに来てから冬でも風邪をひかなくなった」
フィールドワークを仲間と楽しみ、農作業にも汗した。剛二さんはお盆や菓子盆などの木工品、千鶴子さんは木の皮や実を使った工芸品をつくり、毎年二回ほど自宅で工房展をひらいてきた。名付けた工房は「ごくらくとんぼ」。

   そんな生活もこの数年で大きく変わった。『ひょうご森のインストラクター』事務局長を任じる剛二さんは、「最近見つかったホトケドジョウ」を守る会も発足するなど、五つか六つの会に所属。県下の自然教室(昆虫や植物の観察会)で教えるスケジュールが忙しく、ストーブの薪づくりもままならない。

   「土日はほとんど留守で、季節によってはカレンダーが予定で真っ黒に埋まるほど。わたしも一緒に行くので家庭菜園さえできない。近所の方たちが野菜を持ってきてくれるので助かります」と千鶴子さん。

極楽とんぼ2

 「子どもというのは基本的に虫が大好き。なのに、虫を殺す昆虫採集を環境破壊みたいに言う大人たちがいる。そんなことはありえない。むしろ虫たちの生態を通じて自然環境を守る大切さがわかるんです」
「虫や自然を観て目をキラキラさせる子どもたち」と接することが二人の喜びになっているが、半ばボランティアなので収入といえるほどない。「手弁当では続かないし、環境教育のできる人材が育たない」と、剛二さんは案じている。

老後の不安は? この愚問に、「どこに暮らしても老後の不安がなくなるわけでもないし、心配してもしょうがないでしょ」と笑う千鶴子さんに、「体がヨイヨイになっても子どもたちと接していきたい」と応じる剛二さん。夫婦とも、まさに極楽とんぼの心境なのである。

*剛二さんは、このWebで「虫虫宇宙」を連載しています。