伊勢神宮の御饌は一日二回

 伊勢神宮で行なわれる神事のなかには、千数百年前のやりかたをそのままに伝えているものが非常に多い。

伊勢神宮では、「日別朝夕大御饌祭」(ひごとあさゆうおおみけさい)というお祭りが毎日行なわれる。御饌とは神様にお供えする食事のことで、「日別朝夕大御饌祭」は読んで字のごとく、毎日朝と夕方の二回神様にお食事をお供えするお祭りである。この大御饌祭は平安時代の昔から引き継がれてきた神事で、その当時の食事習慣をそのまま伝えていると考えられている。
朝夕の二回「日別朝夕犬御饌祭」が行なわれていることからわかるように、平安時代には、一日二回の食事がごく普通のことであった。また、平城宮跡から出土した木簡のなかにも「常食朝夕」と書かれたものがみつかっており、奈良時代に食事が一日二回であったことを裏づけている。
大御饌祭の時刻は四月から九月までは、朝は午前八時、夕方は午後四時、一〇月から三月までは、午前九時と午後三時である。この時間帯もまた、古代における日本人の食事時間の習慣をそのまま伝えていると考えられる。平安時代までは、人はもとより神様も一日二食が常識であった。

  一日二食が農民の常識

 鎌倉時代の中ごろ、建治元年(一二七五) 一〇月二八日、高野山の領地である紀伊国の阿河荘(あてがわそう 現和歌山県有田郡清水町)の百姓たちが、地頭の湯浅氏の横暴を荘園領主である高野山に訴え出だ文書が『高野山文書』のなかにある。
それによると、地頭の湯浅氏は年貢を強引に取りたてようとして、百姓のところへ武装した部下を踏みこませ、乱暴を働き、抵抗する百姓の耳や鼻をそいだりした。そういう地頭側の悪行を一三か条にわたって書きつらねたなかに、「せメト(責取)ラザランカギリ(限)ワ、ナン十日モタツマジト侯テ、一日ニクリヤ(厨)三ドヅツシ候コト」という一条がある。
つまり、百姓が命令に従って年貢を出さないかぎり、何十日でも百姓の家から出ていかないと脅かし、一日三度ずつ食事を出させたという内容である。
この訴えの文書では、一日に三回の食事をすることが、耳や鼻をそぐことと同じように悪行の一つとして数えあげられている。中世においても、一日に三回も食事をすることは異常な行為であり、むしろ悪行であるとさえ考えられていたことが見てとれる。

 中略。

 ヨーロッパの食事回数

 ギリシャ人は朝食をアクラティスモス、昼食をアリストン、夕食をディプノンと呼んでいたから、古代のギリシャでは一日三食であったことがわかる。どういうわけか、ローマ時代に入ると朝食は消えてしまト、プランディムと呼ばれる昼食とケーナと呼ばれる夕食の一日二食制に変わった。中世のヨーロッパでは、昼の正餐と夕食の一日二食が理想的な食事の形とされるようになった。中世には「一日に一度の食事は天使の生活、二度の食事は人間の生活、三度、四度、それ以上は動物の生活で、人間の生活ではない」ということわざが生まれたほどである。
一七世紀後半に刊行された浮世草子『籠耳 かごみみ』(苗村艸田斎)には「夕食を食べることさえ、仏さまはいましめて、これを非時(ひじ)と名づけたもうた。まして昼飯を食べることが仏さまの御心にかなうはずがない」と書いてあり、仏は一日一食であることを説明している。ヨーロッパ中世のことわざでも天使は一日一回の食事であり、中世においては洋の東西を問わず、聖なるものは一日一食であったのはなぜであろうか。
ヨーロッパでは、一日三食になったのは一八世紀のはじめころだといわれているが、一日二食から三食への変わり方は、日本の場合とは異なっている。
ヨーロッパで新しく三食の仲間入りをしたのは朝食であり、その朝食を英語では break fast というが、その意味するところはfast(断食)をbreak(中断)させるということで、夕食の後から夜をへて翌日の昼の正餐まで続く長い断食を中断する食事がブレックファーストなのである。

中略

 一日三食が生活に定着してきた経過は日本とヨーロでハとでは異なる。日本では朝食と夕食があって、後から昼食が入り一日二食から三食になったのに対し、ヨーロでハでは昼食と夕食の一日二食制に朝食が加わってきたのである。

出典: 『日本人のひるめし』酒井伸雄 中公出版(2001年)

コメント:栄養・カロリー主義を信奉するようになった現代社会、三食どころか間食(おやつ)を含めると、4食・5食という人も少なくない。そこにきて砂糖たっぷりの料理。「昔は三食を賄えるほど食糧が豊富ではなかった。比べて現代は燃料も食材も豊富だし、冷蔵庫には便利なインスタントや冷凍食品もあるし・・・夜の時間も長いから」ということもあるが、健康のためにはその日に完全消化できる二食(程度)がいいに決まっている。現代病(生活習慣病)の原因の多くは砂糖のとり過ぎや身土不二を度外視した過食からきていることは間違いない。