尊はとても感慨深げに、藪二神物(やぶにこうのもの)と仰せられ

日本には、ざっと数えただけでも600種類を超える漬け物があると言われています。(『食いたい!男の漬け物』より)


日本唯一の漬け物神社

日本全国で唯一の漬け物祖神といわれている神社があるのですが、ご存知でしたか。名古屋市の西郊外にある「荒津(かやつ)神社」(愛知県海部郡甚目寺町大字上萱津字車屋一九番地)がそれなのです。
もともと、萱津神社周辺の森は阿波手(あわで)の杜と呼ばれていますが、その森に農業の神様である鹿屋野比売(かやぬひめ)を祀ったのがはじまりで、古くは、草ノ社(かやのやしろ)、または種(くさ)の社と呼ばれていたそうです。その萱津神社には次のような言い伝えが残っています。

毎年、秋になると、付近の村人たちは、豊かな自然の恵みに感謝して、大地から採れる野菜の初物(瓜、茄子、大根など)と、海から採れる藻塩を初穂としてお供えしていました。しかし、せっかくのお供えもそのままにしておくとそのうちに傷んでしまいます。それを嘆いたある村人が、それらのお供え物を甕に入れて供えてみたところ、藻塩から出た塩が野菜とうまいぐあいに熟れ合って、ちょうどいい塩漬けになったのです。
村人たちは、ときが経って、雨露にあたっても変わらないその不思議な食べ物を、“神様からの贈り物”だと考えました。そして、諸病の疫除、万病快癒の護符として、また貴重な保存食品としてその後は各家庭で蓄えるようになりました。

その後、日本武尊(やまとたけるのみこと)が東征の折り、この地に立ち寄り休憩したときに、村人がこの漬け物を献上し、霊験あらたかなことなどを申し上げたところ、尊はとても感慨深げに「藪二神物(やぶにこうのもの)」と仰せられ、その名はいよいよ広く世間に伝わり、いつのころからか「香の物」と書くようになりました。そして、尊が熱田の宮にお鎮まりになった後、村人たちは、「香の物」を毎年奉献するようになり、二〇〇〇年近い年月が流れた今でも、熱田神宮の元旦祭、春祭、秋祭、例祭には、特殊神饌(しんせん)として献進しているのです。
また、萱津神社では毎年八月一二目に「香の物祭り」(町指定無形民俗文化財)が行なわれ、全国から一般の参拝者ばかりではなく、多くの漬け物業者、生産者も集まるようになっています。

出典:『食いたい! 男の漬け物』小泉武夫 角川oneテーマ21